第25話 地下での会話
続光は最初越後の長尾影虎の所に身をよせていた、そこから畠山家中で共に温井紹春を打倒できる人物を探していた、その中でも新たに七人衆に就任した人物は入念に調べ上げた。
【 三宅綱賢 】は三宅総広の傍流の家系にあたり、とても人当たりがよく、家族を大切にする男だとか、だが三宅総広の意を汲んで行動する為に生粋の温井派といってよかった。
【 神保総誠 】は続光が守護代として働いていた時期の四家老の一人であるが、保身にしか目がない男で、逆風に立ち向かうなど考えられなかった、つまり温井派の一人と考えてよい。
最後の一人の【 飯川光誠 】であるが、調べていくと彼だけはどうも温井紹春よりも畠山義綱に近い存在であることが分かってきた、なんでも飯川光誠だけは畠山義綱の肝入りで七人衆に参加したという経緯が分かってきたのだ。彼は表面上は温井派であるが、畠山義綱が傀儡とされている状況を良しと捉えない一人ではないかと続光は想像した。そこで賭けではあるが乞食の恰好をし能登に潜入し光誠に近づいたのだ。
続光には確信に近いものがあった、この現在の状況を畠山義綱と飯川光誠が黙って眺めているわけがない・・・必ず自分を必要とする・・・と
「これは光誠殿かたじけない」
続光は食事をするための膳の出し入れを毎度飯川光誠がすることに対して申し訳なさを感じていた。これは光誠しか続光を知らないためだ、他の家臣や奉公人にはこの事を伏せている。しかし光誠にしろ続光を匿っているのは別に善意というわけではない、己の出世の道具にしたいからだ。畠山義綱に最も近い飯川光誠の出世の手段は一つ。能登国を畠山の手にとりもどし畠山義綱の権力を強化させ自分も強大な権限を手にするという手法だ。ただし温井一族の権力をどうやって弱めるのか方法が思いつかない。ゆえに続光を匿っているのであった。
食事の後は飯川家の地下で温井一族を追い落とす算段を二人で練る。
まず光誠が口を開く。
「温井一族をどうにかできないものか」
「どうしたいのでござる」
「その策を練るのは御辺よ、ゆえにここで匿っておる、のう守護代殿」
「元守護代にござる」
「どちらでもよい、なんぞ策はないものか、そこもとは5000の兵を突如作りだした策士ぞ、何ぞあるであろう」
「あれは反温井の元七人衆を懐柔しただけにござる、あの二人が兵を持ってましたゆえ」
「そのような方法じゃ」
「では、今の能登に反温井の諸侯はどれほどおわす?」
「ワシ一人であろうな、ワシも表面上は温井派だが」
「なるほど、では光誠殿だけで挙兵に及ぶというのはどうであろう」
「たった300人ほどで何をしろというのだ」
「ふふふふ」
「続光殿、あまりワシは暇ではない、そなたの首切って紹春殿の元へ持って行ってやってもいいのだぞ」
「いやいや、お気を悪くされたか?」
「戯れは好むところではない」
「なるほど、では例えば守護様が自ら温井一族の討伐の兵をあげたらどうなるであろう」
「おそらく大半が義綱様に従わずに紹春殿の下に馳せ参じるだろうな」
「では守護様が自ら温井続宗の討伐に兵をあげたらどうなるであろう」
「何が違う?同じであろう」
「すまぬ、分かりづらかったであろうか、言いなおそう」
「?」
「温井総貞亡き後に守護様が温井続宗の討伐に兵をあげたらどうなるであろう」
「!!」
「某にはやはり皆、温井一族を恐れているのではなく温井総貞を恐れている様に感じるのです」
「つまり仕置(暗殺)すると?」
光誠の問いに続光は黙って頷いた。そしてゆっくりと喋り出す。
「某はずっと方法を間違えておりました、軍にて叩き潰すか、政局で葬り去るか、どちらかでやることこそが総貞めを叩き潰す方法と思うておりましたが、温井家とは何でもない、温井総貞一人で作り上げた家のようなもの、総貞なしにこれを維持すのは不可能かと存ずる」
「なるほど・・・」
光誠は目からウロコが落ちた気分だった。確かに言われてみればその通りなのである。
温井家はそもそも畠山家の中ではそれほど高い家格の家ではなく、紹春の親と紹春の代になり大きく力を伸ばした家だ。温井紹春という人物がいてこそ皆は彼を恐れ温井家に従うのである、紹春がいなくなれば、温井家と距離をとる家が大いに増えるだろう。
「総貞・・・いや紹春なしの温井家と畠山家の威光、皆はどちらに従うのであるか明白ではござらんか?もちろん危険はござる、仕置すると十中八九は息子の続宗が乱に及びましょう、しかしこれ以外に畠山が権威を取り戻す方法はござらんのではなかろうか」
(・・・これじゃ)
飯川光誠の腹は決まった。
(温井紹春を仕置する)
こうして温井紹春暗殺計画が動き出すのだった。
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