熾烈なレース

佐伯ヒロ

熾烈なレース

インタビュアー「ゼッケン4618番さん、おめでとうございます!今の気分はいかがですか?」


4618番「感無量です。まさか自分がこのレースを制するなんて思っていなかったので。ただ、苦しいのは自分だけじゃない、他も同じなんだと。それに、応援してくださる皆様のためにも、絶対にゴールするという強い気持ちを持って、今回挑みました。」


インタビュアー「見ている私にも、4618番さんの強い思いが伝わってきました。お母様が、応援に駆けつけてくれたと聞きましたが?」


4618番「はい。実はこのレース、スタート地点が私の地元で、終着地点が母の故郷なのです。私の側にいてくれての応援は、大きな力になりました。父は忙しく、最後まで駆けつけることは出来ませんでしたが、家から出発する時に激励の言葉をかけてくれました。両親の応援があったからこそ、今の私があるので、大変感謝しています。」


インタビュアー「ご両親もきっと喜んでいますよ!さて、以前4618番さんの先輩にあたる同門の元312番さんは(極めて熾烈で競争率が高いと言われるこのレースを制するには、強靭な体力と忍耐力はもちろん、周囲の環境、そして何よりも運が必要される)と述べてましたね。」


4618番「はい。今回レースを体感して、 元312番さんの言う通りだと思いました。レースの中盤くらいまでは他の選手とあまり差がつかないんです。決定的に差がつくのは中盤以降。絶妙なタイミングを見定めることと、そこに至るまで出来るだけ余力を残しておくこと。この二点が大事になってきます。特に、タイミングなんてものは、運の要素が非常に強い。私自身、運が味方してくれたんだなと感じています。」


インタビュアー「元312番さんは前回このレースを制することが出来ませんでした。今回4618番さんが制したことを喜んでくれるのではないでしょうか?」


4618番「はい。きっと喜んでくれると思います。元312番さんだけでなく、仲良くしていただいた元74520番さん、元69822番さん、そして元184659219番さんもこのレースを制することが出来ず、命を絶たれました。彼等だけではありません。このレースは、ほぼ毎日開催されているにも関わらず、制する者は殆どいません。制することが出来なければ、死、あるのみです。ですから、レースが開かれるたびに、参加した何億という者が亡くなっています。私は、これまでに散っていった全ての者に、この結果を捧げたいと思います。」


インタビュアー「このレースが開催されて、今年で20年が経ちました。レースを制することが出来ず、その結果亡くなった方は数知れません。制したのはわずか2名。4618番さんと5年前に初めてレースを制した元300000458番さん。現在は外の世界に飛び出し、多方面で活躍されているそうです。気が早いですが、4618番さんの今後の目標を聞かせて頂けますか?」


4618番「とりあえずは、ゆっくり休みたいですね。その後は、元30000458番さんのように活躍の場を外の世界に広げたいと思っています。」


インタビュアー「今後のさらなる活躍を期待しています。お疲れ様でした!さて、5年ぶりに制覇者が出て幕を閉じた今回のレース。いや~、素晴らしかったですね。次回のレースは明日深夜11時からを予定しています。皆様、どんどんエントリーしてくださいね!さぁ、果たして次回、見事レースを制する者は現れるのでしょうか!?」



終わり

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