さ行

【さ】桜草

 『さ』から始まる植物で日本人はやはり『桜』を思い出すことが多いでしょう。『花』といえば桜を指すことも多いくらいですしね。

 ですが、私は天の邪鬼なので、ここでは桜ではなくサクラソウ科の『桜草』を取り上げたいと思います。名前は似ているけれど、樹木の『桜』とは別物です。

 別名を『九輪草くりんそう』『プリムローズ』ともいいます。


 小林一茶が『我が国は草も桜を咲きにけり』と詠んだように、その花びらが桜にそっくりです。

 そして様々な花弁の形や色があり、多々ある品種名も雅なものばかりです。


 桜草の花言葉は『初恋』『純潔』『清らか』『無邪気』といったいたいけな少女を思い出させるものが多く、その可憐な花びらにぴったりですね。


 一方で『少年時代の希望』『青春』『若い時代と悲しみ』『青春の喜びと悲しみ』など、なんだか甘酸っぱいものも切ないものもあります。

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲で『桜草』というのがあるんですが、歌詞の中に『桜草』なんて一度も出てこないのです。けれど、タイトルは『桜草』なんですね。桜草の花言葉に意味があるそうです。歌詞を見る限り、この切ない花言葉を思い出してしまうのですが。


 ところで、これはエッセイを書いてから知ったことなのですが、私の現在住んでいるところには桜草の自生地があるそうなのです。

 桜草が自生している場所というのは環境破壊や盗掘で全国的に珍しいものになっているそうで、その自生地は群馬県の天然記念物に指定されているほどなんだそうです。

 花言葉に『自然の美しさを失わない』とあるのが納得のような、皮肉なような。


 最寄り駅のホームを囲む柵に、天然記念物の群生地を誇って、桜草を描いたレリーフがいくつも設置されています。

 実は私、この数年の間に嫌と言うほどそれを見ているはずなのにモチーフが『桜草』だと思いもしませんでしたし、気づきもしませんでした。

 それが、このエッセイを書いたことで桜草のレリーフだと気づき、どうして桜草が描かれているのか疑問に思い、調べ、自分の住むところに桜草の群生地があることを知ったのです。


 なんだか一つの知識を得たことで、思いがけず知ることが広がり、ちょっと日々が豊かになったようで、面白いものだと思いました。

 今まではレリーフを見ても「ピンクの花の模様」としかとらえず、記憶にも留めていなかったものが、今は「あぁ、桜草だ。もう咲いているかな」なんて想いを馳せたりするんですから、不思議ですね。


 特になんの愛着もなかった駅ですが、それを知ってからは少し身近に感じるようになりました。

 私にとって故郷は北海道であり、そこを出ればどこに住んでも同じという感覚なのです。けれど、ちょっとだけ、ここが好きになれそうです。花言葉の『希望』にそんな気持ちを寄せて、駅のレリーフを見つめました。


 それにしても、草でもやはり『桜』はどこか儚い雰囲気なんでしょうか。群生地が希少だと知ったせいではなく、姿形から醸し出す雰囲気がどこか淡いですよね。過ぎ去ったものを花びらに重ねる切なさは、樹でも草でも桜が似合うのかもしれません。

 それでも桜草には、木の桜とはまた違うよさがありますね。少し優しい響きがあるなと思うのでした。空から舞い散る桜と違い、地面に近いせいでしょうか、なんだか自分に対しても距離が近いというか、そっと自分に寄り添ってくれているような温もりを感じます。


 桜草は2/1、2/5、2/16、2/24、3/26、4/2、4/3、4/28、5/1、5/13、5/18の誕生花だそうです。



 桜草の花言葉一覧:『初恋』『淡い恋』『純潔』『自然の美しさを失わない』『希望』『清らか』『無邪気』『青春』『若者』『少年時代の希望』『長続きする愛情』『若い時代と悲しみ』『青春の喜びと悲しみ』

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