第17話 州軍
NYの中心部、源泉炉心ギルバートへ向けて一直線に飛翔するブラフマー。純白の四面、四腕の聖騎士。風を切り裂き白雲引きながら空を行く彼の眼前に立ちふさがる者が現れるのにそう時間はかからなかった。眼前に見えるは黄金の聖騎士。NY州軍、騎士団長アリス=ブラウンの乗機、第二世代型機人ジョワユーズ。冬空に羽飾りとマントを翻す黄金の聖騎士。アーメットから除く眼光は緑に輝き、関節部からは黄金色のオーブが立ち上っている。構えたランスと盾を一度キシリと持ち直す。金髪碧眼、眼帯を付け体の各所をベルトで縛った二十代後半の女性は、目の前の機人に宣告する。
「こちらNY州軍、騎士団長。アリス=ブラウンです。ミハエル=アイエン今すぐに投稿してください。あなたにはテロの容疑がかけられています」
空中でブラフマーを静止させたミハエルは苛立ったようすで返答する。その様は解き放たれる前の弓矢にも似た緊迫したものだ。聖騎士ブラフマーからは抑えきれない源泉がオーブとなって立ち上り周囲に強風をふかせている。
「断る。テロに加担したことは認めるし今からやることもテロだろう。だが、もう止まるわけにはいかないし毛頭止まるつもりもない!」
「そうですか……残念です」
アリスがそういったのを合図に地平線の向こう側から複数の飛翔体、ミサイル群がブラフマーへと迫る。空を切り裂き甲高い音をさせるミサイルそれらを視認すると同時にブラフマーは行動を起こす。
「そんなもの!」
そう言ってミハエルはブラフマーの固有武装、右腕第二腕の数珠<ヒラニヤガルバ>から雷撃を迸らせる。放たれた雷の槍は次々とミサイルへ激突、爆発が連鎖しミサイルが撃墜されていく。しかし、それは騎士団長の狙い通りだった。撃墜され爆発したミサイルからは、化学薬品が飛散し上空に分厚い雲を作り出したのだ。雲を一にらみして、ブラフマーは舌打ちをする。
「みなさん!これで【ブラフマーストラ/原初の火】は無視できます!総員、抜剣!」
騎士団長の後方、地上に偽装する電磁迷彩ローブが取り払われ次々と聖騎士が姿を現す。第一世代型機人クレイモアや第二世代型機人トゥーハンドらだ。それらは剣を抜くと同時に一息で最高速度まで加速するとブラフマーに突撃してくる。中にはけん制のために遠距離攻撃を行ってくるものもいた。無数の魔法と剣が殺到する中ブラフマーは雄叫びを上げる。
「ブラフマーをなめるなぁ!」
そう叫ぶとミハエルは左腕第二腕の固有武装、水瓶<スヴァヤンプー>を起動し周囲の源泉を急速に風と共に吸い上げる。生まれた烈風は竜巻となり魔法攻撃を吸収し剣を持った聖騎士を吹き飛ばしていく。騎士団長はそれを阻止するために突撃すると魔法によって不可視化したランスでブラフマーに斬りかかった。
(光線偏向、行けます)
「インビジブル!」
「見えない攻撃か、しかし!」
騎士団長の攻撃に源泉を吸収する風を巻き上げながらも、巨大な柄杓で応戦するブラフマー。空中で火花がはじけ巨体同士が激突した。柄杓の孔からは源泉が噴出し推進力とのなってその攻撃の威力を引き上げる。
「それだけの力を持ちながらなぜこんなことを!」
騎士団を相手取るだけの戦力があれば英雄にだってなることができるだろう。そう思ったアリスはミハエルに問いかけるが。
「これだけの力があっても意味なんてないんだ!結局、俺は一番救いたかったものを取りこぼしてしまった!」
心の内を叫ぶミハエル。その叫びは懺悔にも似て彼の心を切り裂いていく。ならばとアリスは再度投稿を呼びかけるが……。
「まだ間に合います!騎士団へ投稿してください。悪いようにはしません!」
その言葉はミハエルの心には届かなかった。
「信じられるか!平和的なエネルギーをうたっておきながら、人身御供を認めるような連中が支配する集団だぞ!」
「あなたは何を言って……」
突然の発言に困惑するアリス。そこへ畳みかけるようにミハエルは彼にとっては既知の、彼女にとっては驚愕の事実を重ねていく。
「源泉炉心の中核が何で出来ているか知っているか!?」
「それは量子コンピューターでは……」
アリスの回答に一拍おいてミハエルは叫ぶように答える。
「生きた……人間だ!!」
「そんな馬鹿な!」
驚愕の発言に一瞬固まった騎士団長。そのすきをつき身の丈ほどもある柄杓<ブラジャーパティ>が超振動とともに振るわれる。何とか盾で受け止めたジョワユーズだったが、その盾は一撃で装甲が吹き飛びもはや使い物にならなくなっていた。
「くっ!ここまで性能差があるなんて」
「こいつはもともと八大龍王の一角ケツァコアトルを、オーバーSランクの化物を相手取るための機体だ。第二世代のジョワユーズで勝てると思ったか!」
二人が戦っている間に体勢を立て直した団員たちは、隊列を組むと一斉にブラフマーへと攻撃を仕掛ける。聖騎士達の連撃に純白の装甲を散らすブラフマー。その時、それまで源泉を吸い上げていた水瓶が動きを止めた。
「それでも!ブラフマーストラさえなければ!」
「丁度たまったか。なら、これでどうだ!」
ミハエルがそういうとブラフマーの右第一腕、聖典<ヴェーダ>が唸りを上げる。それは聖典に格納された機人がもつ大魔法を使うときの合図。ブラフマーはヴェーダによって徴収した機人のもつ大魔法を任意に発動することができるのだ。
(聖典から情報を取得、回路変更)
「【アマノ・ムラクモ/天地鳴動・疾風怒涛】」
ブラフマーの左第二腕、水瓶が唸りを上げる。先ほどまで吸い込んでいた源泉と圧縮された大気を起爆剤に直上へ向けて超大型の竜巻が放たれる。それは周囲の空気を巻き込み巨大化しあっという間に超大型の台風へと変貌する。雷を纏った暴風は分厚く空をおおっていた雲と今まさにブラフマーへと斬りかかろうとしていた聖騎士達を軒並み吹き飛ばした。轟く烈風は大地を巻き上げ、天より落ちる雷が大地を穿つ。それはブラフマーを中心にまるで隕石群でも落下したかのような惨状を作り上げた。立っていられたのはとっさに周囲の騎士たちが身を挺してかばった騎士団長だけだった。
「そんな!これは日本のムラクモ型が使う天候魔法!」
「勉強不足だなこれで空は晴れた。弱点の克服を疎かにするわけがないだろう!」
空からさす光に照らされゆっくりと降下してくるブラフマー。
「しかし、こんな戦略級の大魔法を撃てば源泉もそこを尽きるはず!」
「確かにそうだ……しかし」
その言葉通りブラフマーの関節から吹き上がるオーブは勢いが衰えその消耗度を物語っていた。しかし……。
(対象を捕捉、人工衛星ブラフマーストラを起動)
「【ブラフマーストラ/原初の火】」
その時、ブラフマーへ向けて空から煌めく光が降り注いだ。静止衛星軌道上に存在するブラフマーの奥の手。軍事衛星基地ブラフマーストラからの光線照射だ。
「な!自爆?いえ……これは、まさか!」
突如、自身に向かって奥の手である衛星兵器ブラフマーストラを放ったミハエルを目にしてアリスは一瞬困惑したがすぐにその理由に思い至った。そうそれは光線を利用したエネルギー供給。太陽から吹き荒れる高濃度の源泉を光に変換して打ち出すブラフマーストラの支援技だった。途端に息を吹き返すブラフマー。ほんのわずかに傷ついていた装甲すらもみなぎる源泉によって修復されていく。
「しまったっ!」
「そうそれもこれで問題ない」
ブラフマーはその源泉を完全に回復していた。各関節からは、先ほどとは比べものにならない勢いで、黄金色のオーブが立ち上っている。一方、NY州方面軍で残ったのは騎士団長だけだった。戦力差はもはや歴然としていた。
(対象を捕捉、人工衛星ブラフマーストラ)
「受けて滅びよ【ブラフマーストラ/原初の火】」
ブラフマーの号令を受けて天より降り注ぐ破滅の光。日輪の威光たるそれを身に受けまいとジョワユーズは全力で防壁を展開する。
「くっ!シャルル!」
(イエス、マスター!光波防御壁展開!)
宇宙から降ってくる光の柱に虹色に輝くランスの先端を向けるジョワユーズ。ランスの先端から放たれた光は、花弁のように広がってかろうじて衛星兵器を受け止める。
「くっ!なんて思い一撃!ふせぎ、きれない!」
(背部スラスター全力起動!)
スラスターをふかし光柱から何とか逃れるジョワユーズ。そこへ迫るブラフマー。長大な柄杓は内部で莫大な源泉を水へと変換、巨大な水球を作り上げジョワユーズへと投じたのだ。十メートル級の機体の優に五倍はあろうかと言う大瀑布がジョワユーズへと迫る。
「しかたない。眼帯を外すわ!」
(了解!魔眼解凍!モードアクセラレイション!)
騎士団長アリスはその手で片目をおおっていた眼帯を取り外す。そこから現れたのは宝石の輝き生来の体質ゆえに水晶体が変貌し魔眼も呼べる器官へと変質した彼女の眼球だった。それは源泉の光を受け紫色に輝くと彼女の脳機能を高速化し人外の認識速度を与える。とたんアリスの見る世界は鈍化し彼女は、その中を源泉で強化した機体で駆け抜けていた。ジョワユーズの後方で水球が大地と共に爆発した。風を置き去りにしたアリスは裂帛の気合と共にブラフマーへと肉薄する。
「ここから先へは、行かせません!」
「むろん、押し通らせてもらう!」
両雄は再度激突する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます