第2話 ノーラとの出会い

「あれ、どうみても本物だよな……?」

 俺は上空を飛び去って行くドラゴンを見ながら呟く。最初はロボットか何かだと思ったがそれにしては動きが滑らかすぎる。それにあの迫力はどう考えても本物だ。

 え、マジで?本当に異世界に来ちゃったの?異世界転移とかアニメとかライトノベルの世界だけの話じゃなかったの?

 悪い夢でも見ているんじゃないかと思い頬をつねってみたが普通に痛かった。どうやらこれは夢なんかではなく、本当に異世界に来てしまったらしい。

 まてよ?そういえばメールには異世界でかわいい魔法使いの弟子になって、とか書いてあったよな。本当に異世界に来た、ということは俺の師匠となるかわいい魔法使いの女の子がいるはずだ!、と思い周りを見渡すがどこまでも続いているのではないかと思うくらいに広がっている平原には、かわいい女の子どころか自分以外の人間は一人もいない。

「詐欺じゃねぇか、この野郎! こっちはかわいい魔法使いの弟子になれるっていうから誘いに乗ったんだぞ! なのに普通にドラゴンのいる異世界の、しかもこんな見渡す限り平原が続く場所に放置してかわいい魔法使いは登場しないとか舐めてんのか? あぁ!?」

 はぁはぁはぁ……。ひとしきり叫んだら疲れたけどすっきりしたし、だいぶ落ち着いてきた。ひとまずこんなところにいてもドラゴンの餌になるか餓死しそうだし移動するか。

 俺はゆっくりとあてもなく歩き始めた。


 それから二十分ほど歩いただろうか。俺は三匹のオオカミに囲まれていた。いや、正確にはオオカミではない。体調1.5mほどのその生物は見た目は完璧にオオカミなのだが、羽が生えていた。

「これはやばいんじゃないか……?」

 俺の所持品は財布と携帯のみ。武器になりそうな物は何もない。対してオオカミ型モンスターは鋭い歯を剥き出しにし、低くグルル……、と唸りながら今にも襲い掛かろうとしている。絶体絶命の大ピンチだ。

「……待てよ?」

 アニメや漫画では異世界転移をした主人公は大抵何かの能力に目覚めている。ということは、同じく異世界転移をした俺も何か特殊能力があるんじゃないか? 例えば凄い威力の魔法を使えるとか! だとすればこれくらいの相手どうってことは無い。

 俺は右手を高々と上げ、叫んだ。

「サンダーボルト!!」

 ……。あれ? おかしいな。本当なら雷がこのモンスター達に落ちて倒せるはずなんだけど……。

「ならこれならどうだ! エクスプロード!」

 俺の渾身の叫びは果てしなく広がる空へと吸い込まれていった。

 魔法使いの弟子になるはずだし魔法の適正あると思ったけどそんなことなかった? え、マジで? どうしよう、まさに絶体絶命じゃん!

 と、そのときついにオオカミ型モンスターが襲い掛かってきた。

「くっ」

 必死に回避するものの一匹が足首に噛みついてくる。

「ぐっ……!」

 あまりの痛さに叫び声もまともに出ない。噛まれた部分が焼けるように熱い。このままじゃ喰われる。

「はな……せ……!」

 かすれた声を出しながら必死にもう片方の足でオオカミ型モンスターを蹴りつけるが全く離す気配がない。それに段々と痛みのせいか、それとも出血が多すぎるせいか意識が薄れてきた。

 あぁ……。死ぬのか、俺。あのふざけたメールの誘いに乗ったせいで異世界に連れてこられて、かわいい魔法使いに会う前にこいつらに喰われるのか。なんて最悪なバッドエンドだ、ちくしょう。……せめて来世はかわいい女の子と出会える、そんな人生になるといいな。

「グルル……」

 耳元でオオカミ型モンスターが唸った。ついに喰われるのか。短い異世界ライフだったな。

「吹き飛ばせ、フラーメン!」

 死を覚悟したその瞬間、遠くからそんな言葉が聞こえ、突風が耳元で唸っていたオオカミ型モンスター達を吹き飛ばした。足首に噛みついていたオオカミ型モンスターは仲間達が吹き飛ばされたことで怖気ついたのか噛みつくのをやめ逃げ出した。

 今のが魔法か……?なんて威力だ。1.5mはあるオオカミ型モンスターを吹き飛ばすなんて威力だ。

 魔法の威力に驚いていると少女が駆け寄ってきた。

「大丈夫? 今傷を治してあげるわ。癒しを与えよ、クラーレ」

 すると青白い光が傷ついた部分を包み、光が消えると傷は完全に癒えていた。動かしても痛みは全く感じない。魔法って本当にすごいな……。

「ありがとう。本当に助かったよ。俺は武田優真」

「私はノーラ、ノーラ・グーテンベルク。気にしないでいいわ。無事でよかった」

 ノーラは微笑みながらそう言った。改めてみてみるとこの子めちゃくちゃかわいい。身長は140cmくらいだろうか。銀髪ロングに紅目、三角帽子に少しぶかぶかのローブに身を包んでいる。エマ先生の新作絵の女の子が画面から出てきたような、そんな子だった。

「さっきの爆風とかって魔法ってやつ?」

「そうだけど、何よ、魔法を見るのは初めて?」

「あぁ。元いた世界には魔法なんて物は無かったからな」

「元いた世界? どういうこと?」

 あぁ、確かにいきなり他の世界から来た、なんて言われたらそうなるよな。

「えっと、実はさ……」

 俺はノーラに事の顛末を話した。この世界にメールというものは無い、というか科学技術は全く発達していないらしいから説明に手間取ったが、大体のことは理解してもらえた。

「なるほど、それは召喚魔法ってやつかもしれないわね」

「召喚魔法?」

「ええ、精霊界や異世界から精霊や人間、動物とかを召喚する魔法のこと。ただ召喚魔法は全魔法の中でも最上級の魔法の一つだから使える魔法使いはかなり少ないうえ、かなり大掛かりな準備が必要だからほとんど使われることはないわね」

 なるほど。だとしたら俺を召喚したどこかの誰かさんはなんで俺なんかを召喚したのだろう? 大がかりな準備なんかをしてまで俺を召喚しても全くメリットないだろうに。


「そういえば俺も魔法を使えるようになったりするのか?」

「魔法というのは鍛えれば誰でも使えるようになるものだから、出来るようになると思うわ」

 おぉ! 俺も魔法使いになれるのか! 火を出したり雷を落としたり、爆発を起こしたり出来るようになるのか! 俺の中二病心がくすぐられるぜ!

「でも、鍛えるって言ってもどうすればいいんだ?」

「そうね、どこかの魔法学校に入るか魔法使いの弟子となって直々に教わるかのどちらかね」

 魔法使いの弟子……? もしかして、あのメールに書いてあったかわいい魔法使いというのはノーラのことなのでは? ノーラは正真正銘のかわいい女の子だ。きっとそうだ、俺はこの子に弟子入りをすればいいんだ。

 魔法を使えるようになるには大変なこともあるだろうが、かわいい女の子が教えてくれるのならどんな大変なことも乗り越えるに決まっている!

「ノーラは魔法使いなんだよな? だったら俺を弟子にしてもらえないか? さっき説明した通り異世界から召喚されて行くあてもないし、それに、さっきのノーラみたいに俺も魔法を使えるようになりたいんだ」

「止めといた方がいいわ。魔法使いの弟子って聞こえはいいけど基本的には雑用ばかりだし、凄い大変よ? それはもう三日で辞めたくなるくらいには。それでもなりたいの?」

 何、魔法使いの弟子ってそんなに大変なの? やめとこうかな……。いや、ここで引き下がるわけにはいかない! 何のためにこの異世界に来たと思っているんだ。かわいい魔法使いの弟子になれるからだろうが。ノーラの弟子になればずっと一緒にいられるんだぞ。こんなかわいい女の子と一緒にいられるならどんなに辛くてもきっと頑張れるさ。

「大丈夫、きっと乗り越えて見せる。だから弟子にしてくださいお願いします」

 俺はノーラに頭を下げてお願いした。

 ノーラはそれを見ると、

「しょうがないわね。いいわ弟子にしてあげる。厳しいから覚悟しなさい」

 苦笑しながら俺を弟子にしてくれた。

 

 こうして俺の異世界でかわいい魔法使いの弟子として過ごす異世界生活は始まった。

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