磨羯宮 episode.1&side

 シュテルと相談し、もう少し素材を集めてから合成に移ることにした。

 シュテルから聞いたところ、ファングの街道は、双子宮の縁で生まれた採取地、つまり気の加護らしい。最初に行ったナーエの小川はもちろん水の加護だ。

 という訳で、まだ行ってない火と土の中から、次の採取地を選択することに。

「採取のしやすさからすると、ナハト洞窟の方がましだろうな。磨羯宮の縁で生まれた、土の加護を受ける採取地だ」

「洞窟か……」

 洞窟なんて、元の世界では観光地になっている鍾乳洞くらいしか行ったことがないけど、イメージは暗くて湿ってて、コウモリとか出そうで――あんまり良くないなあ。しかも野生(?)の洞窟とか結構危ないのでは!?

「今日の採取だが――採取地がナハト洞窟だしな、せっかくだから、って訳でもないが、磨羯宮のタインを呼んでおいた。仲良くしろ」

「タインさん……」

 確か、長身の寡黙な人だったよね。


 洞窟内は、予想通りあまりいい環境じゃなかった。舗装されていないので道らしい道もない分、予想よりも悪いと言ってもいい。

 シュテル曰く、エレメントがもう少し充実すれば開拓も進むだろうとのことだった。つまり、採取地が荒削りであるほど、それは私が未熟だというわけで……。うーん、もっと頑張らなきゃなあ。

「!」

 うわ、危ない。そんな風に考え事をしながら歩いてたら、滑って転びそうになった。つるつるして、歩きにくいんだよなあ。

 ――と。

「主神。洞窟内は滑る。手を」

 タインさんが、私に向かって左手を差し出す。

 ……手を?

 手、手をって……?

「どうした?主神。滑ると危ない。俺の手につかまれ」

 やっぱり!?

 い、いやでも、ほぼ初対面の人と手を繋ぐとか緊張する――

「進む」

と言う暇もなく、繋がれた。というか、掴まれた。

 こ、この人、寡黙って言うか、単にマイペースなだけかも……。

 や、でも、まあ、繋ぎ方は至って事務的だし、本当に危ないからってだけで他意はないんだろうな。人ごみの中ではぐれたら危ないから子供としっかり手を繋いでおく、みたいな感じ。

 ……あれ、私、子供?

「主神」

「は、はい!」

 タインさんに呼ばれ、慌てて顔を向ける。

「あそこにも、採取物がある」

「あ、ほんとだ……」

 示すほうを見ると、上のほうに光る場所があった。高すぎて、私だと気付かなかったな。身長の高いタインさんだから気付けただろう場所だ。

「んー、でもあそこだと高すぎて届かないな……」

 何気なく呟いたことを、直後に後悔する破目はめになる。

「問題ない」

「え?……うわっ!」

 突然浮遊感に包まれ、私は女子らしくない悲鳴を上げた(とっさに「きゃっ」とか言えません)。

 ひょい、っと持ち上げられたかと思うと、私はタインさんの右肩に腰掛けるように座らされていた。

 タ、タインさん!?

「これで届く」

「い、いえあの、重いですし、いいですよ!降ろしてください!」

「?問題ない。主神は軽い」

「……」

 不思議そうな顔で見てくるタインさんに、私は議論の無駄を悟り、沈黙した。だめだ、降ろしてくれそうにない。

 ええい、もういい。この際早く採取してしまおう!


 何とか採取して無事に降ろしてもらい、私はタインさんに対する評価を改めた。

 この人……、単なる天然だっっ。


 ――side:タイン――


 主神は、小さくて軽い。気をつけて守らなければ。

 今日は、なぜか時々、慌てていた。

 今度、理由を聞いてみよう。


【採取アイテム】

・《何かの鉱石:何かは分からない》

・《光る石:洞窟の中で光ってて綺麗だった》

・《岩塩:名前の通り。精製したら、料理に使えるかな?》

・《鍾乳石:成分は炭酸カルシウムらしい》

・《コウモリの羽:よく魔女が使ってるイメージがあるけど、何に使うんだろう?》

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