転生悪役令嬢と死にたがり執事は契約を交わすー公爵令嬢のプロローグ

せりざわなる

第1話 悪役令嬢の終わり

ーあ、この人。私に興味ないんだわ。


落下していく感覚と共に、視界に入る近づく地面と私との間に伸ばされた二本の腕。

その腕の持ち主の顔も見えた瞬間、私は気づいた。


ーこれ、助からないわね。


予想通り頭と足先に柔らかい彼の腕が掠り、私は落下し続けていく。

そして、頭と体に大きな衝撃と痛みが襲った。

頭の中が一瞬真っ白になって、地面についている部分がジクジクと痛みを訴えだした。

思わず動こうとすれば、たちまち痛みは強くなり、頬や手についたらしい土がジャリジャリと存在を示す。

やがて地面に着いてる耳が、土の感触だけじゃなく液体の感触もとらえてくる。


ーああ、これはまずいかも?


そう思っているうちにも、耳が液体に浸されていく感じがわかる。

ジャリと土が擦る音がして、ぼんやりとしてきた視界をえいやと音の方向に向ければ、綺麗な黒靴が目の前にあった。ーそして、そこにあったままだった。


ええっと。

だから、さっき、はっきりとわかったわ。

貴方が、私に全く興味ない事が。

でも、ちょっと待って。

私への感情はともかく、貴方は私のお父様にも評価が高い優秀な人よね。

だから、お仕事はしてくれないかしら。


身体はどんどん動かなくなるのに、意外にも思考はガンガン巡る。

だけど、結局は頭の中なので、事態は一向に進まない。

時が止まったかのように、私も目の前の彼も動かなかった。


……これは、マジでヤバイな。


と、今まで使った事のない言い回しがふと頭に浮かび上がってきて、それに驚いた瞬間。


「きゃああああっ!ルゼナさまぁっ!」


若いメイドの声が響き渡り、時が動いた。

ビクッと目の前の黒靴が震え、ざっと膝が着かれる。


「ルゼナさま!只今、医者を!」


ーようやく、彼が仕事を思い出してくれたらしい。

脈を測るように首筋と手首に暖かいものが触れる。


「頭を打っていらっしゃる!動かしては危険だ!医者を連れてきてくれ!」


そして彼が通常モードになって、テキパキと物事が進んでいく様子が感じられる。

こうなったら、私の生存率はさっきより格段に上がったはず。

……いいや。彼が指示を出し自ら動くならば、私は助かる。だからー。




私は意識を手放した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る