第3話 蛙黙示録カズマ 中編
かくして、ついにカズマら四人組とテイラーら四人組による、カエル討伐の共同戦線が始まった!
「でりゃああああああ!」
一直線になぎ払ったカズマの剣が、カエルの柔肉をスパッと切り裂いた。巨大な爬虫類が、断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
「ふんっ!」
カズマの真横から、テイラーの剣が振り下ろされる。攻撃した後の隙を狙っていた別のジャイアントトードを、間一髪のところで切り伏せたのだ。
それでもなお、カエルの群れは物量戦を挑もうとするかのように二人に対して突進してくる。
「そうはさせないよ、『ウィンドカーテン』!」
しかし、彼らの背後に待機していた魔法使い、リーンの中級魔法がそれを許さなかった。
突如として発生した風の壁が、ヌメリとした胴体を横殴りにする。そして、その怯んだ一瞬を狙って、カズマとテイラーが息を合わせて串刺し攻撃を放った。
腹を貫かれて、また一匹、カエルが絶命する。
そこで、カエルの群れの行動が一瞬、止まった。冒険者たちの強力な連係攻撃に、本能的な恐怖を覚えたのかも知れない。
「動きが止まっちまえばこっちのもんだぜ! 食らえやっ!」
訪れた好機に思わず喜びの声をあげたのは、彼らの後ろで弓を構えていたキースである。
動きを止めたカエルの一匹に狙いを定め、一直線に矢を放つ。すると、見事に脳天の辺りに突き刺さって、ドスンと倒れ込んだ。
バトルが開始してから、約二十分。
カエル討伐は予想以上に順調だった。
「すげえ・・・・・・こんなに楽な討伐クエストは初めてかも知れない」
目の前のカエルの群れをあらかた片付け終わったカズマが、思わず感嘆の声をあげた。
やはり、きちんとした冒険者のパーティと組んでるおかげだろう。余計な行動をしないだけでもありがたいのに、しっかりと目の前のモンスターを倒すために尽力してくれる・・・・・・ああ、仲間とはなんて心強い存在なのだろうか。
で、カズマの本来の仲間たちが何をしているのかと言えば、
「ガズマあああああああああああああああああ! 早ぐごいづら片付げでえええええええええええええええええ!!」
遠くの方から、世にも情けない女神様の絶叫が聞こえてきた。
泣きっ面で全力疾走するアクアの背後では、十数匹のジャイアントトードが彼女を捕食するためのレースを繰り広げている。
・・・・・・絵面だけを見れば、いつも通り、役に立たない駄女神様の図そのものなのだが、
「よし、こっちは大体片付いたから合流して良いぞ、アクア! お疲れ様!」
「や、やっだあ・・・・・・助がっだぁ!」
カズマの指令を受けると、それまで無秩序に走り回っていた女神様が、カズマたちのパーティが待機している場所を目がけて駆け抜けてくる。ゴールラインを抜けるようにカズマの真横を抜けると、擦れ違い際にハイタッチをした。
「ば、バドンダッヂ・・・・・・!」
「オッケー、引き受けた!」
すると、アクアを追いかけていたカエルの大群が、ちょうどカズマたちと相対する形になる。
こうなれば、話は簡単。
カズマとテイラーの二人でカエルを切り裂き、リーンの魔法が二人を守り、キースが背後から援護射撃をするという、先ほどの手順を繰り返すだけである。
・・・・・・とまあ、このように、ジャイアントトードの大軍を誘導する係として、立派に役割を果たしているのだった。
普段はその知力の低さばかりが目立つアクアではあるが、腐っても(元)女神、他のステータスは平均よりも大幅に高いのである。
つまり、カエルごときでは追いつけない敏捷と、そう簡単には底を尽きない体力を持っているということだ。
なので、件のデュラハン戦と同様に、そういう働きをしてもらえば、決して役に立たないわけではないのである(カズマの居た世界には「馬鹿とハサミは使いよう」ということわざがあるが、まあ、つまりはそういうことだ)。
「・・・・・・ね、ねえ? 私もうここで休憩してちゃだめ? いい加減、足が限界なんですけど・・・・・・」
「ダメだ」
カズマはキッパリと言い切った。
「ほら、まだあっちの方にカエルが残っているだろう? こっちの方に来ないように、早く誘導に行ってこい」
「あ、あんた・・・・・・後で覚えでなざいよぉ・・・・・・!」
恨みの感情でギリギリと歯ぎしりをしながらも、再び巨大な爬虫類の群れに向かって突進していくアクア様なのだった。
再びパーティから遠ざかっていく水色の服の少女を見守りながら、後衛のアークウィザードの少女がぽつりとつぶやいた。
「・・・・・・あの、カズマ。私はいつになったら爆裂魔法を撃たせてもらえるのでしょうか? いい加減、身体がウズウズしてきて限界なのですが」
「もう少しだけ待て! 決着の目処が付いたら思いっきり撃たせてやるから、それまでは我慢してくれ!」
禁断症状か何かの類いでプルプルと震えだしているめぐみんに、カズマは切実な表情で訴えかける。
実は、このロリ顔の少女には、まだ何もさせていない。
当たり前と言えば当たり前の話だ。いくら超強力な爆裂魔法を使えると言っても、撃てるのはたった一発だけで、しかも撃ったら力尽きて身動きできなくなってしまうのだ・・・・・・ならば、使いどころは自ずと決まってくる。
すなわち、「撃ったら勝負が決まる」瞬間。
たとえ魔力が尽きて動けなくなってしまうとしても、その瞬間にモンスターが全滅しているのならば何も問題ない・・・・・・そう「はかいこうせんは使うと反動で1ターン動けなくなるけど、相手を倒しきれば関係ないよね!」ということである。
「あああああ・・・・・・撃ちたい、あのカエルの大群のど真ん中に爆裂魔法を撃ち込みたい・・・・・・ねえ、カズマ! まだなんですかぁ!?」
「まだだ! カエルの残りが十匹・・・・・・いや、十五匹になったらぶっ放して良いから、今はまだ耐えるんだ!」
唯一の懸念は、めぐみんが辛抱しきれず勝手に爆裂魔法を無駄撃ちするのではないかと言うことだったが、そこは事前に「もしも我慢し切れたら、アクアからドレインタッチで魔力を奪って二回撃たせてやる」という悪魔の契約を結んでいるので何とかなっている。今回に限ってはアクア様々と言う他ないだろう(ちなみに、アクアは
で、一番の不安の種だったダクネスだが、
「さあ、ジャイアントトードよ! 私は逃げも隠れもしないから、どこからでもかかってあぐぅ!?」
「よし、あっちのカエルがダクネスを飲み込んだぞ! 攻撃のチャンスだ!」
「うっしゃぁ! 俺に任せろ!」
そう言ってジャイアントトードの懐に飛び込んでいったのは、前衛職の中で唯一、前衛に立っていなかった男、ダストである。
口の中で女騎士をモゴモゴしているカエルの丸い腹に得物の長剣を突き立てて、そのまま横に引き裂く。すると、奇怪な悲鳴をあげて、また一匹カエルが絶命した。
「う、うう・・・・・・これがカエルの、口の中・・・・・・」
息の根を止められた巨大ガエルの口内から、粘液でヌルヌルになった金髪の女騎士が這い出してくる。
一体、彼女はどれだけカエルに飲み込まれたのだろうか。
上品な黒のタイトスカートと黒シャツは、カエルの粘液で艶めかしいテカリを帯びてしまっている。何も知らない第三者が見れば、ヌルヌルプレイを愛好する性的倒錯者に責め苦を味わわされた後だと誤解してしまうに違いない。事実、しっかりと事情を知っているカズマでさえ、その肉感的な肢体を見る目がどこか怪しかった。
「まだ・・・・・・まだだ・・・・・・ここで倒れるわけには・・・・・・」
女騎士の状態は、既に満身創痍だった。
いかに上級職のクルセイダーとは言え、ここまで疲労した状態で戦線に立つのは普通は不可能だろう。
「こ、この場で倒れてしまうなど・・・・・・もったいなさ過ぎて出来るわけがないっ!」
・・・・・・が、ご存じの通り、このダクネスさんは普通の二文字から最も縁遠い御仁であった。
瞳の奥で得体の知れない、並々ならぬ情熱を燃えたぎらせながら、我らがクルセイダーは再び立ち上がった。
口元にカエルの粘液にも似た唾液を
このように、囮戦法の要として意外にも活躍しているのである。
「あの金髪の女騎士は凄まじいな・・・・・・どれだけカエルに食べられても、出てきた次の瞬間にはもう立ち直っている・・・・・・一体、彼女の防御系のステータスはどうなっているんだ?」
テイラーは再び別のカエルに頭からパックリやられているダクネスに尊敬のまなざしを向けていた。同じクルセイダーとして、何か思うところがあるらしい。
「いや、本当にすごいのはカズマだぜ・・・・・・あの三人をきちんと戦力として活躍させられるだなんて、ただ者じゃねえ・・・・・・」
しかし、ちょうどダクネスを飲み込んだカエルを倒したダストが畏敬の念を抱いている人物は、テイラーとは違うようだった。たった一度とは言えダクネスたちと行動を共にした彼にしてみれば、今回のクエストのサクサク具合は文字通り「あり得ない」ことなのだろう。
勿論、それはカズマにしても同じだった。
あの役立たずどもを今回のように戦力として運用できているのは、
「・・・・・・かぁ〜ずぅま〜。爆裂魔法の出番はまだですかぁ〜・・・・・・」
「ええい! 今カエルを数えてるから少し待ってろ!」
痺れを切らしてきためぐみんの、地の底から這い上がってくるような声を受けて、カズマは慌てて残りのカエルを数え始める。
十六、十七、十八・・・・・・ざっと見ただけだが、半分も残っていない。これならば早めに爆裂魔法を撃たせても問題ないかも知れない。
いや、カエル五十匹と聞いたときはビビってしまったが、実際にこなしてみれば案外、なんてことないクエストだった。テイラーたちと一緒だから報酬は折半だとは言え、この程度で百万エリスを稼げるならボロ儲け・・・・・・
突然の地響きが、平原を襲った。
それが巨大なモンスターが地面に着地した振動だとカズマが気がついたのは、足下を掬われて素っ転んでしまった後である。思いっきり鼻から血を出しながらも顔を上げて、目の前の状況を確認する。
すると、カズマは驚愕に目を見張ってしまった。
「おいおい・・・・・・何か、明らかにやばそうな奴が出てきたんですけど・・・・・・!」
カズマたちの前に現れたのは、新たなカエルだった。
それも、見るからに他のジャイアントトードとは一線を画する・・・・・・通常よりも一回り以上は大きい体躯を持つ、二本足で立っている超巨大ガエルである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます