第102話 俺、今、女子夏休み終盤中
ほんと、いろいろあった夏休みだった。
——俺はしみじみ思い出す。
いや、夏休み前からいろいろであった。
夏休みは特に度が過ぎていた。
というか「休み」とはいえなかった。
女子おオタ充
そこで、俺がリア充の権化として忌み嫌ったパーティーピーポー生活……は思ったほど嫌じゃなかったけど、彼女の従兄との過去を巡るトラウマが難題でそれを解決して、やっとできて入れ替わりを元に戻すことができたと思いきや、その光景を見ていた女帝——生田緑は、俺(というか
気づけばお盆も終わって、もう残された夏休みは一週間しかないではないか!
まずいよ。まずいよ。何もできてないよ。
——ああ、何がだって?
何ができてないかって……?
そりゃあ……。
あれだ……。
——何もかもだよ!
アニメもマンガも溜まりっぱなしだよ。休みになったらまとめて見よう、読もうと思っていたものが、そのまま溜まりっぱなしだよ。
特に、夏アニメは佳境にきたり、テコ入れの水着回(見てないけどあるに違いない)と思うのに、なにも見れてないよ。
こういうの勢いに乗り遅れるとそのまま見なくなるんだよね。
——見なくなるくらいなら、そのまま見なきゃいいじゃないか?
——別に見る運命だったらあとでまた見ることになるだろ?
違う! 違う!
俺は、易きに流れようとさそう心の声に思いっきりダメ出しをする。
あとで見ないようなものは、今見なくても良い。確かにそういう意見に一定の理があることは認めよう。
でもダメなんだよ。
——それじゃダメなんだ。
後で見なくなるからこそ、——ここで見なきゃいけないんだ。
一期一会。ここでこそのアニメとの出会い。
アニメは、アニメだけで虚無の中にポツンと浮かんでいるのではなく、様々な関連性の中にそれはあるんだよ。
もちろん、作品そのものの力がないとダメなのはその通りだ。
でも、その力も、周りの状況が組み合わさって初めてこの世に現れるんだよ。
例えば、俺がアニメにはまるきっかけになった、まどマギなんかは、あの次の週にはどうなるかわからないハラハラをみんなで共有しながら盛りがらなければ魅力の何割かはかけてしまったし、偶然大震災と重なるという不幸なアクシデントまでも作品を神がからせたりの、作品を状況との融合があってああいう名作になったんだと思うよ。
他も、その場の勢いってあるでしょ。時代の雰囲気ってのもあるし。
アニメは、——メディア作品は、それ単体だけじゃ語れないんだよ。
今見なきゃいけないものは、——今見なきゃいけないんだよ!
例えば、——考えても見てほしい。
極論だが、もし世の中に誰も人間がいなくて、そんな世界で、時間になったらアニメが放映されている姿を。
そのアニメは今俺がいる世界のアニメと内容も作画も何も変わらない。
でも、そのアニメは、俺が、今この世の中で見るアニメと同じ意味を持つといえるだろうか。
意味を持つため、意味を感じる、意味を作り出す人間たちがいなくなったというのに、その作品は意味を持つといえるだろうか?
……いやいや、少し極論過ぎたかもしれない。
ただ、アニメはその放映された状況も大事。その状況に合わせて盛り上がれるのかも大事それは間違いないと思う……。
しかし!
その大事な中盤を、今年の夏は、
ここで追いつかなければおいていかれる。
置いてかれたら二度と追いつけなくなる。
この夏は、この夏しかないんだよ。
この夏の夏アニメは、この夏の夏のアニメなんだよ!
去年の夏のアニメでもなければ、来年の夏のアニメでもないんだよ!
——って。
まあ、ついつい暑苦しい夏に鬱陶しくも熱く語ってしまったが、でも事態は絶望ってきってほどでもない。去年の中学三年の時の、冬に迫る受験の影に怯えながらの夏休みと比べればだいぶましであるともいえる。
何しろ、一日何時間もアニメやらマンガとかにさくことのできなかった、去年の暗黒時代にくらべれば、この後、まるまる一週間が残されているのだ。
それは24時間かける7日である。168時間もある。なんと、三十分深夜アニメであれば、336回もみれるではないか。
それはつまり、1クールもののアニメなら、28作品もだ、——と言うことだ。それに、まだ中盤の今期夏アニメだから倍。50作品以上見れるよな。
でも、——ああ、今期、夕方や日曜朝のアニメ入れてもそんな作品数ない。というか、流石に不眠不休というわけにはいかないからそんな数を見るわけには行かないが、——気になってた十数作品に追いつくには十分な時間だ。
正直、一話切り余裕の作品もずいぶんとあるだろうから、ちゃんと睡眠も食事もとってだらだらと見ても二、三日。積んでたマンガも読んだりして、時々はコンビニに買い出しで外出したりして……。
ああ、
なんというか、ここ一ヶ月の慌ただしさに比べると、天国のようだな。
わずか数ヶ月の短い間に、いろんな女の人と入れ替わり、いろんな人生を体験したけれど、
家族もゆるいし、あいつが好きほうだいにしていてもあんまり干渉してこないし。喜多見家の生活も長くなって結構慣れて来たし、実は自分の体にいる時と同じくらいリラックスしてオタク活動ができるくらいの状態になっている。
そして、そんな理想的な環境でこの後一週間休みがあるのならば、アニメに追いつくのはもちろん、マンガやラノベなんかにも手を伸ばせるかもな、と俺は目論見をたてたのだった。
しかし、その計画にあたり、一番邪魔くさくになりそうなのは生田緑と和泉珠琴が少しでも空き時間があれば放り込んでくる合コンだった。あれって、拘束時間もあるが、ギラついた男たちが欲望を隠しながらも隠し切れない、気色わるい猫撫で声に晒されたあとは、しばらくダメージ抜け切らないんだよね。
ヘタしたら、帰って次の朝まで復活できずに倒れてしまっている。実に、迷惑千万っっっっっrにして、時間を食いまくってしまうイベントであるが……。
今回は、この後の夏休み、——その心配ないんだよね。合コンは休み中はもうないことを俺は女帝——生田緑から伝えられていた。
なぜなら、夏休み、体入れ替わりに伴った様々な事件に生田緑もさんざん巻き込まれて……。
——宿題が終わってないそうである……。
……。
……。
……。
……はは。
……ははははは。
……はははははははははははは!
……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!
やったあ!
ざまあみさらせ!
自由だ! これで俺は自由だ!
俺は——宿題なんて、もうとっくに終わらせていた。
意外と几帳面というか、小心者というか、やることが残っているという不安に苛まれるくらいならとコツコツと宿題をこなすことを選ぶ俺であった。
そのアリとキリギリス的毎日が、夏休みの最後に差となって、おれはついにやってきたしばらくぶりの自由時間を、最後のひとときまで満喫してやるのだ!
まずは、夏アニメに追いついて……
俺はそう思いながら、まずは今期アニメの評判を確かめようとパソコンをひらいたのであったが……
*
思わぬ伏兵がいたものである。
夏アニメのレビューでも調べようと見た情報サイトの広告欄にあったゲーム、”プライマル・マジカル・ワールド”その新マップの”ブラッディ・ワールド”。
それは、よくある謎中世世界を舞台にしたゲームではあるが、残虐な女魔法使いブラッディ・ローゼの帝国に対抗する女聖騎士ホーリー・ロータスとの戦いを中心に構成された各陣営に別れたプレイヤーどうしが、敵味方に別れて戦う、リアル系戦闘シーンが売りの大巨編であった。
俺は、こんなのやってしまったら、残りの夏休みが潰れるという予感がして、——背筋にすっと寒気を感じながらも……。
「ポチッとな!」
耐えきれずクリックしたそのゲームに……。
予想通りドはまりしてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます