5.仲間Ⅵ
特訓のほうは一度中断して聖十字のアジトに戻ることにした。
少し暗くなり始めたのもあるし、魔力に関しては時間を措いて徐々に慣れさせる必要があるので、まだ無理に酷使しないほうがいいと教えられた。 こっちとしては、正直既に筋肉痛に似た痛みが全身に走っているので有難いことこの上ない申し出である。
町に戻ると、すっかり人気がなくなっていた。僅かばかりの灯りが家々に見られるが、外を出歩いている姿は見られない。元々活気がある印象がない町だが、夜になるとその様子が一層強まるように感じられた。
アジトの入り口となる寂れた家に戻ってくる。いざって時に逃げられるように、出口は数カ所存在するけど、入り口はここだけだそうだ。あまり多く作ると、侵入ルートを増やす危険性もあるとアルが教えてくれた。
最初に訪れた通り、「ガラスの靴」での暗号のやり取りをしたあと、再び隠れ家に戻ってきた。
「おう、戻ってきたか」
地下に降りて皆のいる奥まで行くと、セネガルさんが迎えてくれた。
「どんなもんだった?」
「そうですね。動きは荒いですが思った以上に順応は早かったです。正直、伸びしろが見えないですね」
「なるほど。さすが、『アリス』の力は底知れないようだ。とりあえずこっちは、粗方準備は進めておいたぞ」
そばで聞いていて、私のことを言っているんだろうことは何となく分かる。だが、言われてみれば何やら周りはゴタついていて人の行き来が激しい。慌ただしい限りだ。
「何してるの?」
「あぁ。我々が此処に潜んでいることがバレてしまったからな。まさか聖騎士デズモンドまでいるとは思わなかったが、いずれ魔女姫リディアにも伝わるだろう。町の人々に危害が及ばないように移動する準備だ」
「それって魔女姫たちから逃げるってこと?」
周りで作業している人たちも、一瞬動きが止まったのが分かる。ここにいる人たちは少なからず魔女姫たちに反感を持ち、抗おうとする人たちだ。気に障ってしまうのも仕方ないと思った。
「……逃げるんじゃないよ。攻め込むんだ」
「あぁそうだ。もうこれ以上コソコソした持久戦はおしまいにするんだ」
「これから派手に攻撃を仕掛けるのよ」
アルだけじゃない。魔女姫を斃すことに意気込んでいるのが肌でも感じ取れる。でもそれって……。
「なら、町の人たちは……どうなるの? ブルトスもいるのに、放置するの?」
「アヤメ違うよ。放置するわけじゃない。当然何人か残ってもらって援助はしていく。今までは護りしか出来なかったけど、これからは攻めも護りも強固なものにしていくということだよ」
「そ……そうなんだ」
自分のなかで納得できたと同時に何を出しゃばってしまったんだろうと思ってしまう。私には関係ないことなのに。こんなの、私らしくないはずだ。
「ごめん」
「謝ることなんかないよ。アヤメも一緒に考えてくれたんだ。むしろ嬉しいことだよ。それより、ドゥーガルは?」
「おう。呼んだか?」
そう言ってドゥーガルが現れる。せわしく皆が動き回る中、間を縫うようにして姿を見せる。
「町の復興と警備のほうはどこまで進んでる?」
「最低限の立て直しは進んでるぜ。警備も万全を整え始めてる」
「同行にしてくれる人は集まったか?」
「気が早ぇな。それはアニータに任せてるけど、まぁそこまで芳しくなさそうだな」
言いながら目を向けた先にアニータがいた。同じ聖十字の若い男と話していたが、やがてこっちに気付いたようだ。
「アニータ。進捗はどうだ?」
「いやぁ思ったより厳しいね。ロレーナは魔女姫以上に外の世界が正直怖いって。シモンは妹をおいてはさすがに行けないって言われちゃったよ。他にもいろいろ理由付きで断らわれちゃった」
「……そうか。まぁ、仕方ないな」
アルの言う通り、私も断られるのも仕方ないと思う。同行するということは、魔女姫と積極的に戦うことになるわけだ。中々志願者も集まらないだろうなと思えた。
「待ってて。私、もう一回説得してくる」
「待て待てっ。こういうのは数が多ければいいってもんじゃねんだ。なぁアルフレッド」
「……そうだな」
大々的に戦争を仕掛けるわけではない。そんな戦い方をすれば敗北は必至。ここには女子供も多いようだ。そう考えると、積極的に戦えない人たちを連れていくわけにはいかないし、戦力を残しておくことも必要だろうと思う。
「ま、俺は予想してたよ。俺、アニータ、アルフレッド、そんでアヤメちゃんの四人なるだろうなってな。十分だろ」
「いや、実はもう一人候補は一応いるんだ」
「誰?」
「道中に会ったハンターだ」
あ、そういえばエルムがいたっけ。今はどこで何をしてるんだろう。
「今どこにいるの?」
「この町に来てから別れたからこの辺にはいると思う。まぁ最終的にはついてこないかもしれないが」
「かなり曖昧だがまぁいいだろ。その時になったら挨拶としたらいいさ」
出発は明日。準備は備えるとして、今日のところは休養を取ることになった。私自身には手荷物とかもないので、準備など身一つだ。周りが先ほどからせわしなく動き回るなか、私だけが手持無沙汰だった。さすがに何かしてないと気持ち悪い。
比較的話しかけやすいアルに手伝えることはないか訊こうとしたところ、大きくガラガラ声が地下の部屋中に木霊した。
「おーし、皆集まれ飯の時間だ」
「作業中断! まずは食うぞ」
皆の切り替えの早さに戸惑ってしまう。流れにおいて行かれそうになっていると、アニータが私の手を握った。
「え、何、御飯?」
「そうだよ。アヤメちゃん一緒に食べよ」
「う、うん」
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