第23話
「うわ……これは酷いな…」
あれから泣いて、泣いて、いつの間にか寝ていたらしい。鏡をみると目元が赤く腫れていた。
しかし仕事は行くしかない。日本人気質がこんな時も骨の髄まで染みついているのだ。
「風呂入って仕事いくか…」
身体の怠さを感じつつも俺は熱めのシャワーで目を覚まして切り替えようと顔を両手で叩いて気合を入れた。あの人に突き放されて失恋するのがこんなにもダメージだったなんて。
はあ…つらい。
それから数日が経ったが、驚くほど普通に毎日が過ぎていった。社長と関わることがなかったのは幸いだった。仕事の契約はそのまま、ということだったが、今まで田宮社長の方から会いにきてくれていたのだが、それがなくなるとこんなにも会わなくなるのか…とやはり寂しくなり目元が熱くなる。情けない…しっかりしろ、俺。
あの日から1週間ほど経ったころ、仕事終わりの俺に見知った人にエントランスホールで声をかけられた。
「津島さん、少しご無沙汰しております」
「い、伊豆さんっ、ど、どうも」
その姿を認めてすこし肩が跳ねる。無意識にキョロキョロと周りを見てしまう。
「ああ、田宮ならいないんです。私で申し訳ありません」
「え?!い、いや…そういう訳では…やっぱり…もう社長は俺と会ってくれないですもんね」
「………津島さん…」
「あ、いや、全然、俺は大丈夫です!なんか変なこと言ってすみません。ほんと気にしないでください」
やば、明らかに余計なことを言った。伊豆さんが訝しげに俺をみる。慌てて取り繕うが彼は微妙すぎる顔をしていた。
「ほんとに、あなたたちって人は……まあいいです。今日は津島さんにお会いしたい、という方がいらっしゃいまして…」
「え?」
伊豆さんがそう話すと俺は表に停めてある高級車へ案内された。
乗るように後部座席に促されると…
「あなたが津島さん?どーも、はじめまして!ちょー会いたかった〜〜!!ヤバイ〜!」
「へ、ええ?!ど、どなたですか?うわっ!ちょ、抱きつかないでくださいぃぃ!!」
「伊豆、出して」
「はい、麗華様」
後部座席には超絶美女が座っており、ドアの前に困惑して立っていた俺は急に手を引かれ、座らされた。そして訳がわからないうちに連行されたのだった。
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