第4話

まさかこんなぺーぺーの俺が仕事を任されるだなんて…バックアップは課長もしてくれるらしいけれど、メインは俺で、という先方からのお達しらしい。そんな神様みたいな取引先なんてあるんだなぁ…

佐竹にも大事な同期のお祝いだといって昼飯まで奢ってもらった。うう…嬉しい。今までちゃらい奴だとか思っててごめん。いい奴だったんだな、佐竹。


俺は浮かれ気分でいた。だがその幸せもあまり長くは続かなかったのだ。





「津島ー、タミヤプリンスホテルさんからお電話だ、内線112な!」

「は、はいい!」


その日の午後、例の取引先からの電話があった。まさかこんなに早く連絡が来るとは…

心の準備をしていると、斎藤課長が口パクで「がんばれ」と言ってくれた。なにそれ天使なのー?とか思ったマジで。桂木の冷たい視線は放っておこう。



よーし、よし。俺はできる子俺はできる子…



そう念じながら俺は受話器をそっと耳にあてた。



「お待たせしました。お電話代わりました、営業部2課の津島と申します」

『津島さんですね、タミヤプリンスホテルの社長秘書の伊豆と申します。』


電話口で話す男性はかなり洗練された、とても明瞭な喋り方をする人だった。さすが社長秘書。できる部下は違うといったところだろう。その伊豆さんは次に驚く提案をしてきた。


『お忙しいところ恐縮ですが、こちらの取締役の田宮が津島さんにお会いして直接お話をしたいと申しておりまして』




「はい…ええ?!た、田宮社長がですか!?」

『ええ、こちらで店などは手配いたしますので、いかがでしょうか』

「いえいえ、こちらで手配しますよ。そんなこと申し訳ないです」

『いえ、田宮が津島さんをお誘いしたいと言って聞きませんので。どうぞご遠慮なさらず』

「え、遠慮だなんて!」



本来はこちらが下請けになるわけだから、全て手配して接待すべきのはこちら側である。まして俺はぺーぺーの新人なのに、そんなことをしてしまってバレたらたまったものではない。

いくら優しい課長でも雷が落ちるかもしれない。


「あの、本当に結構です。こちらで手配いたしますので…」

『ふふ…っ』

「…え?」


俺はビビって必死にその旨を伝えると、なぜか電話口からは笑い声。何かおかしなことを言っただろうか。

名前と声しか知らない相手だが、なんとなく堪えきれず笑ってしまった感が漂っているのは気のせいだろうか。


『…失礼しました。思ったより手強いお方ですね。声は可愛らしいのに』

「…はい?」


なんだろうか。なんだかとてつもなく馬鹿にされたような…これも気のせいかな。


『あの人が気に入るのもわかる気が致します。では明後日の午後5時に、そちらに伺いますので。失礼致します。』

「はあ……って、明後日?!ちょ、っと」



ブツッと切れて繋がらなくなった受話器を握りしめて、なんだかこれから起こることに不安になったのだった。

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