第43話 言語のズレ

「シェリル。そういや今さらだけど、この世界……文字は日本語なんだな」


 商品を紹介するプレートには、手書きで見慣れた文字が書いてあった。

 貨幣単位は円ではないらしく、金額の横には「コペロ」と書かれている。

 うーん、円に換算するといくらくらいなんだろ。


「その昔、皇帝陛下が日本のエロ本を解読して公用語に定めたそうだ。それからこの世界のエロ魔法は、飛躍的に発達したのだという。かくいうわたしも、日本語は好きだぞ。とても素晴らしい文字だ」


「うーん、そんなにいいもんか?」


 小学校の頃から漢字を覚えるのに苦労してるし、どうも実感がわかない。


「まずはひらがな。この丸みをおびたやわらかさが好きだ」


「うん、それは何となくわかる」


「そしてカクカクしたカタカナは、いい角オナができそうだな」


「……それは同意できない」


 おい、今とんでもない単語が聞こえたぞ。

 そんなカタカナの使い方するヤツ、初めて聞いたんだけど。



 俺は商品棚に置いてあったポ……ローションに目を向ける。

 俺たちの世界にもある、薬局でも売ってそうな普通のローションだ。

 次にその隣にあるものに目が行く。――MPポーションだ。


 へー、MP用のポーションも店売りしてるんだな。

 ローションと同じように、小さなボトルに入っている。



 ――ってこれ、アロマオイルじゃん。



 主にマッサージ用に使われる、いい香りがするヌルヌルの液体。

 マッサージというのは建前で、オイル使ってオトナ……なサービスをするお店もあるらしいから、確かにローションと同類っぽいイメージはあるけど。


「むう、このアロマという文字……見ているだけでエロくなれるな」


「文字? シェリル、それどういうことだ?」


「わからないのか? もっとよく見てみろ」


 そう言われて、俺は商品名のプレートに書かれた『アロマ』を見る。

 …………。

 ただのアロマだけど?


「ヒントは、ちょっと丸文字風に変えてみることだ」


「丸文字?」


「それで『ア』は縦の棒の角度を変えると『マ』に見えないか?」


「……見えないことはないな」


「『ロ』は形を丸くすると『○』にならないか?」


「……確かに。もう文字ですらないけど」


「そして『マ』の下の斜め棒を水平にしていくと……?」


「えっと……『コ』に見えるな。――――あっ!?」




  ア → マ

  ロ → ○

  マ → コ




 アロマの力ってすげー!!

 まじかよ、でも……見えないこともない!!

 

 こういうのって1度見えちゃうと、それにしか見えなくなっちゃうよな。


 うわあ。このMPポーション、もう使う気しねーよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る