ターン3「まほう屋の子」

「村のなかを、あんないしてやるよー」


 今日は、マイケルに連れられて、村の中を歩いていた。


「おまえ。おれの。こぶんだしなー。こぶんのめんどうをみるのは――いたいいたい。いたいよ。カイン。そうだよ。ちがうよ。トモダチだよ」


 ぎゅーっとやってたこめかみを、放してやった。


「あー。いてえ。おまえ。うちのカアちゃんより、ちから、強いなー。もう。冗談だよ。おこるなよ。むすっとしてるなよ。……え? おこってない? むすっとして見えるだけ? ……まあいいけど」


 マイケルは立ち止まった。


「ここが。まほう屋だー」


 村のはずれの一軒の家。ほかとちょっと違う感じがする家。

 どこが違うのかというと……。

 ここは、なにか〝しごと〟をする家のようだ。なんの〝しごと〟かわからないが、家の半分が、作業をするばしょになっている。


 あと、家の手前のカウンターのところに、いろいろなものが出してあって……。

 〝売る〟とかゆーのをやっているところのようだ。


「よし。ババア。いないな?」


 マイケルは、なにかを確認しながら、一歩一歩、そろりそろりと進んでゆく。

 なんだかよくわからないけど、おなじように、そろりそろりとついていった。


 家の裏手にまわりこんでゆくと、大きな鍋が火に掛けられているのがみえた。

 すごい。おっきい。部屋ぐらいある大きさの鍋だ。

 その鍋の前に、紺色の服を着た女の子が座りこんで、火の番をやっていた。


 このあいだマイケルから聞かされた、「まほう屋の女の子」だろうか?

 ツンツンしていて怖いけど、かわいい女の子だと、マイケルはそんなことを言っていた。


 〝かわいい〟っていうのは、よくわかんないんだけど。

 その背中は、ちょっと人を寄せ付けない感じ。


「よう! キサラ!」


 マイケルが女の子に話しかける。


 女の子は、じろり――じゃなくて、〝ぎろり〟という感じで、振り返った。


「なによ? ――マイケル。あんたまた、ぱんつのぞきにきたの? またカエルにしてやるわよ」


「……うえっ。なにおこってんだよ? ……あんなのただの挨拶だろ。……やめろよ。……カエルはいやだよう」


 マイケルは腰が引けている。

 ……とか思ったら、ぴゅーっ! と、走っていってしまった。


「じゃ! じゃあなーっ! カイン! 案内はしたからなーっ! ――おれ! そうだおれ! ヤギのちちしぼりしないと! カアちゃんにおこられるー! ヤギのちちしぼりはたのしいなー! あーたのしい!」


 逃げてった。


「――で。なに? あんたは、なんなのよ?」


 女の子は、こんどは、こっちにそう聞いてきた。


 うーん。……なんだろう?


「なんの用よ?」


 うーん。……とくに用事、ないよね?


「じゃあ、あっちいけ。こどもは、こどもらしく……、あそんでいたらいいでしょ」


 女の子はそう言った。

 きみもこどもだよ。おなじぐらいの歳だよね。


「あたいは、なべのばんをしていないとならないの。じゃないと、ババアに、ハナクソつけられるの」


 はなくそかー。それはやだなー。


「わかった? 納得した? ――わかったら。あっちいきなさいよ」


 女の子は、つん、と胸を反らして、そう言った。

 〝かわいい〟っていうのは、よくわからないけれど……。

 この子の凛としたかんじは、きれいだなー、と思った。


「なによ。なに見てんのよ。はァ――きれい? ば――ばばば! ばっかじゃないの!? カエル? カエルがいいの? そんなにカエルになりたいのッ!?」


 カエル? すきだけど?


「ばか! ばかっ! そんなぽんぽん、人をカエルになんかしないわよ! マイケルだったらともかく」


 ともかくなんだ。

 あと……。したんだ。


 女の子は、しばらく黙りこんでいた。

 ややあって――。

 ちら……と、こちらを見上げてくる。


「あたい。……キサラ」


 うん。しってる。マイケルがいってた。


「しってるのもしってる。でも、ちゃんと名乗ったわけ。……あんたは? 女の子が名乗ったんだから、あんただって、ちゃんと名乗りなさいよね!」


 名乗った。


「カイン? ……あははっ。なにそれ? あんたぜんぜん勇者っぽくない。名前負けしてるわよ。名前かえなさいよ」


 だよねー。

 そう思う。

 村長のおじいさんに言ってね。


「じゃ――名前もわかったことだし。――あっちいけ」


 やっぱ、そこに戻った。

 女の子は、かたくなに、鍋の火をじいっと見ている。


「こどもは、遊んでいればいいのよ。ばかっぽく、きゃー、とか、うおー、とかさわいでりゃいいのよ。それがしごとよ」


 きみだって、こどもじゃん。


「あたい。あたまいいもん。子供とちがうもん。まほうだって使えるもん。――カエルにするのだけだけど。でもそのうち、すっごい、まほう使いになってやるもん。ババアなんか追い抜いて、はなくそ、付けかえしてやるもん」


 すごいんだね。


「す、すごくなんてないわよ! なにいってんのよあんたばか!? ――もー! ちょうしくるうー! いいからもう! あっちいきなさいよ! あっちいってよ! あたい。へーきだもん! ひとりは慣れてるもん! さびしくなんてないもん! だからあっちいけーっ!!」


 女の子にあっち行けと言われた。

 どうしよう、どうする?


 言われた通りに、あっちに行く? それとも――?


 女の子の隣に腰掛けますか? [はい/いいえ]


==============================

Twitterでの選択結果はこちら!

https://twitter.com/araki_shin/status/676181819914514433

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る