第二話
「それだけど、本当にきみはここの領主様のお嬢様? 僕って領主様の町まで行ったことが無いから全然わからなくて」
「証拠はこれです。このペンダントに刻まれているのは私の家の紋章。この紋章を持てるのはその家の者だけ、なんだけど……」
最初は貴族の威厳がある言葉遣いと雰囲気だったのだが、最後は崩れて子供っぽいものとなる。ペンダントを胸元から出して見せても、エインが首を傾げるだけだったからだ。
「ごめん。領主様の名前は知ってるけど、紋章なんて見たこと無いし。ただそのペンダントが高価だってことはわかるよ。光ってるし、それって宝石?」
「うん、そう。他に証拠になりそうなものは……」
「ありませんね。脱いだ服はそれなりに高価なものですが、お嬢様が領主様の娘だという証拠にはなりませんね」
助けを求めてネミールはアイリーンへ顔を向けたが、その言葉でがっくりと肩を落とす。その姿を見たアイリーンは目を輝かせる。
「ああ、お嬢様。落ち込んだ姿も綺麗です」
肩を落としたネミールを見ながら、エインは彼女が本物だと半ば信じていた。
雪にまみれひどい顔をしていたときはわからなかったが、身を整えたその姿はメイドが言うほど大げさなものではないけれど、十分美しい。小ぶりな顔に配置された目鼻口はどれも整っている。吹雪で多少崩れているが、背中まである長い金髪は美しく手入れがされていた。着ていた服もかなり上等だ。それを見てエインは少なくとも彼女が高貴な身分であると理解する。
「信じるよ。たぶん本当だと思うし」
「えっ! 本当に」
勢いよく顔を上げたネミールにエインは頷く。
「悪い人じゃなさそうだしね」
「よかったー」
「お嬢様の美しさは世界共通なのです」
なぜかメイドが胸をはって自慢げだ。
「そういえば、家にいるのはエイン一人なの? 家族の人は?」
「……一年前にじいちゃんが死んでから一人」
「ごめんなさい」
笑顔だったネミールの顔が一瞬で泣きそうな表情へ変わった。
「辛いこと聞いてごめんなさい……」
「いいよ。気にしてないし」
「そうです。お嬢様がこんな者のことで落ち込むことはありません。あやまってください」
「え、僕? あの、ごめん」
「そんな、私が……」
二人が交互に謝るのが何度か続き、やっと落ち着く。
「そうだ、二人はどうしてここに来たの? ずいぶん領主様の町からも、他の村からも離れてるけど」
「それは……」
ネミールは不安げな、アイリーンは感情があまり感じられない無表情となって黙る。エインも黙って待つと、静かにネミールが口を開いた。
「それは一昨日……北から緊急の早馬で騎士の人がやってきて……その人は、すごく恐ろしいことが起こったと言ったの。帝国が、イヴュル帝国が攻めてきたって……」
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