第19話 ~嘘から知った愛情・ユララム・完~ ①


 自分に嘘をつく――。

 私も、嘘ついてた。

 自分の生まれた感情を、気がつけば無視することが当たり前になってた……。


 仲間がうざいって、ユララムさんは言ってるけど、それって裏を返せば……。


 アイカはユララムの震える肩を眺めると、力が抜けていくのが分かった。


 なんだ、簡単な事だったんだ――。


「私……ユララムさんの気持ち、分かる……かも……」

「は……?」


 ユララムは半ば睨むように、立ち尽くすアイカを見上げた。


「ユララムさんの行動は確かに間違っています。だけど……。自分にも嘘をつき続けていたら、本当の気持ちが何もわからなくなって……」


「なんだよ、何が言いたいんだよ……」


 未だにアイカを睨み続けるユララムだが、反応の仕方は、確かにアイカの言葉を受け止めている。


「本当の気持ちと真逆の事をしてしまう……そして、爆発しちゃうというか……持ってはいけない気持ちになることだってあります……!」


「アイカ……ちゃん?」

「アイカ……」


 マイキーは少しずつ戻りつつある体力で身体を起こし、壁にもたれて座る。リーナも体勢を整え、アイカを見つめた。


「ユララムさん……本当は、心から話せる仲間を、本気で求めてる……。本当は、仲間と一緒に居たいんじゃないんですか……?」


 アイカはまっすぐにユララムを見つめた。視線を受け止めたユララムは、苦痛な罵声を浴びるだろうとばかり思っており、意外な言葉を聴かされ目を泳がせる。



「……まじで、お人好しばっかだな」


 ユララムは瞳を閉じて、大きくため息をついた。


・・・


 俺の通う鳴上高校は、俺の住む県の中では平凡な学力の高校だ。


「凄いな、今回も1位か」


 教壇の前では一人の優秀というレッテルを貼られた生徒が褒められる。


 あんたの拍手なんかいらねぇ。心もこもってねぇし、皆を見てみろよ。

 誰もあんたなんかの話なんか聴いちゃいない。

 誰も褒められてることを喜ぶ奴なんていない。


 机の下ではこの学校の人間か、見えない人間とのやりとりをされてる事に気づいていても。


 ただ時間が過ぎていくのを、退屈過ぎる時間をどうにかしろよ。


 毎日、学校に来て椅子に座る意味なんてあんのか。

 勉強? テスト?

 テストなんて誰がやりだしたんだよ。

 テストで人間の価値決める国なんてここぐらいじゃねぇのか。

 くだらねぇ。日本人がバカになるのは当然だろ。

 どこを見渡しても皆、バカ、バカばっかりだ。

 バカに育て上げられてしまった人間が集まって何話してても単調な話題でつまんねぇのは当然だろ。


「まじキモイんだけどー」

「あいつうざくね?」


 なぁ、それって何語だよ。


 成績、顔、身体のどこかに人がくれる評価が無いと、人間扱いされない世界。


 人として扱われないことが如何に辛いか――。馬鹿話しか出来ない奴らにはいつまでも分かんねぇだろうな。


 そんな評価モンに囚われない奴。

 誰かもっと頭がいい奴いねぇのかよ――。


 人間の奥深いものを知ること無く大人になってしまった奴らで溢れた、こんな乾いた世界なんていらねぇ。


 何も評価がなくなってしまった自由な世界がありゃいいのに。 


 「バカ」の部類になってしまった

 俺達の気持ちはどこにも行き場がない。

 受け入れられる奴なんてどこにもいない――。


 でも――。


 俺は――。


 本当は皆のいう「普通」が羨ましい。

 

「仲間」が羨ましい。


 俺でない誰かに向けられるその愛情が羨ましい。



 俺はもっと、本音言って受け入れてもらって

 安心して顔を合わせて


 笑ってみてぇよ――。

 


 ケイ。


 俺はケイと出会えて

 確かに

 こんな奴もいるのかって


 そんな幸せを、いつしか感じてたんだ――。

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