chapter 19 絆-2

2  ―月―日 御影浪子




 白と黒の弾幕に覆われた空間があった。

 黒服に包まれた参列者たち。

 線香の匂い。

 菊の花。

 響く経。

 額縁のなかには笑っている少年。

 父親らしき人物と手を繋いでいる少女。

 そして、少年の母親。

 そのとき、辺りから囁きが聞こえてきた。


 ――親なのに止めれなかったの?

 ――教師としての体裁のほうが大事だったんじゃない?

 ――息子さん自殺なんて可哀相。

 ――傷だらけなのに気が付かなかったなんて嘘よね?

 ――母親が殺したんじゃないの?


 母親の呼吸が荒くなりはじめた。

 瞼が熱くなった。

 この感情はいったいなんなのか?

 頬を一滴の液体が伝った。

 口元についた液体はしょっぱかった。

 ふと前を見た。

 額縁の中の少年は母親に笑いかけていた。

 また瞼が熱くなった。

 ああ、いらない。

 こんな想いは、自分にはいらない。

 こんな感情は、自分にはいらない。

 こんな役目は、自分にはいらない。

 なんなんだ、この感覚は。

 苦しくて、胸に鉛を埋め込まれたようだ。

 いらない。

 いらない。

 誰かこの鉛を取ってくれ。

 誰か……。


「……充、私は……」

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