Ⅴ 第5の審判

chapter 18 第5の審判-1

1  9月16日 母と子⑤




 朝、重い瞼を擦り開け目を覚まし、窓の外を眺めた。

 空は黒かった。

 まるで世界全体が闇に覆われているかのように。

 テレビでは作り笑顔のキャスターが今日の天気を伝えていた。

 降水確率20パーセント。

 昼からは快晴となるらしい。

 嘘をつかれている気がした。

 洗面台に行き、水飛沫が跳ねるのを気にしながら顔を洗う。

 最近、自分自身のことを見つめなおす機会が増えた。

 それに伴う何かの劣化。

 それは初めからあった自らの『欠落』に気付き始めたことか?

 でも、そんなことはどうでもいい。

 だ。

 



* * * * *



 いつもより通学用の鞄が重く感じた。

 心痛な面持ちで神谷陽太は自室から階段を下りてきた。

 つい先日に霧島響哉からの連絡を受けて以来、ずっと心の中に大きな鉛を埋め込まれたかのような気分だった。

 この間、母である神谷波絵の顔さえも見ることができなかった。

 怖かったからだ。

 もう誰を信用していいかわからなかった。


「僕たちが止めなければならない」


 霧島からの電話で最後に言われた言葉だ。

 それは陽太が3年1組で最初に感じたことだ。

 それが起因となり、『審判』に立ち向かおうと考えたのだ。

 宵崎高校の全貌を過去から眺めた。それによって御影充というかつてのスクールカースト下位の正体が見えてきて、御影零という存在を掴めた。

 そして、御影浪子のことを知った。

 さらに、自分のdark sideに気付き始めた。


【自分の中には、自分以外の何かがいる】


 それが何なのかはまだわからない。

 でも、確かに言えること。

 それは、自分が『審判』を止めなければならないということ。

 必ず。


「陽太?」


 玄関のドアを開こうとしたとき、背後から声をかけられ陽太は思わず身体を硬直させてしまった。

 ドアノブを掴んだまま、ゆっくりと振り返った。

 息子を心配するような顔をして波絵がそこに立っていた。


「陽太、ご飯は?」


 陽太は渇いた喉から振り絞るように声を出した。


「いらない」


 波絵は小さく頷くと続けていった。


「顔色悪いじゃない。無理して学校に行く必要なんてないのよ」


 陽太は一瞬目を閉じて、ゆっくりと開いた。

 先よりも強めの口調でいった。


「いや行くよ。行かなきゃならない」

「……陽太?」

「母さん……俺は、貴方に聞きたいことがある」


 首を傾げる彼女を鋭く見つめながら、陽太は小さく深呼吸して口を開きいった。

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