chapter 16 第4の審判-6

6  ―月―日 平森隆寛




 中学の頃。

 彼は誰よりも優しくて、臆病で、ゆえに人の顔色ばかりを窺う少年だった。

 友達はいなかった。

 他人に対して、友達という領域まで踏み込むことができなかった。


 高校入学の頃。

 彼は決心した。

 高校では変わろう。

 こんな自分を捨てて、新しい自分へと変わろう。

 勉強も、部活も、友人関係も、恋愛もして、自分は生まれ変わる。

 彼はそう思っていた。


 入学式の日。

 校門で彼はある少年とぶつかった。

 少年は彼に謝ってきた。


「わりい! 大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫、です」


 少年は彼に尋ねた。


「あれ? キミもこの高校に入学した人?」

「そう……です」


 少年は彼に微笑んだ。


「そっか。俺もなんだ。キミ名前は?」

「僕は、ひ、平森隆寛、です」


 少年は彼に名を名乗った。


「俺は五十嵐アキラ。よろしくな」



 彼は中学の頃に比べ、友達もできた。

 休み時間になると、彼のまわりに集まってきてくれる友人もいた。

 彼は臆病で優しい性格のため、いつも笑って丁寧に友人たちとの時間を過ごしていた。

 友人たちは、『伊瀬友昭』『東佐紀』と名乗っていた。

 友人たちのなかに『五十嵐アキラ』はいなかった。

 学校のなかで『胡桃沢桜』という可愛い女子も見つけたが、その女子の傍にはいつも『神谷陽太』という男子がいた。

 そいつの存在を彼は鬱陶しいと感じていた。


 それでも彼にとって、友人たちとの時間は楽しかったはずだった。

 しかし、いつの日からか、彼は心の奥底ではいつもこう思い始めていた。


「どうして僕のまわりにいる奴らは、こんなクズばかりなんだ」

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