chapter 12 輪郭-4
4 7月8日 母と子③
こんなに遅い時間に帰宅するのは、かなり久しぶり、いや陽太にとっては初めての経験だったかもしれない。
スマホを確認してみると案の定、母・波絵からの着信が何度も入っていた。
「こりゃ、怒られるな……」
そう思いながらの玄関を開けると、波絵が心配する面持ちで現れた。
「もう高校3年生だからね、門限を付けて厳しいことは言いたくないけど。帰りが遅くなるならちゃんと連絡して頂戴」
「ああ……ごめん、母さん」
「何してたの?」
「あーえっと……」
仕事を依頼した探偵の事務所に行って、気絶したように寝てしまい、気が付いたらこんな時間だった。
などと言えるわけもなく、
「友達と勉強しててさ。つい夢中になっちゃって」
と嘘を付いた。
元々、勉学を教える職に就いていたこともある波絵は「勉強をしていた」という言い訳ならば、かなりの許容範囲を持つことを陽太は知っていた。
「友達って桜ちゃん?」
「あー、まあね」
「ちゃんと大学進学のこと真面目に考えてくれてるのね」
「……んー。そう、だね」
「ご飯食べるでしょ? 準備してあげるからちょっと待ってなさい」
キッチンの奥に消えていく波絵の姿を眺め、陽太は先ほどのことについて考えていた。
乙黒が自分に対して言ったあの発言は何だったのだろう。
まるで陽太が『審判』について何か知っていることを疑い、聞き出そうとでもいうようなあの言葉。
陽太は心の中で自分の知らない化け物に追い詰められるような不安を感じていた。
「なあ母さん?」
「なに? さきにシャワー浴びる?」
「あのさ……俺って、母さんの子、だよね……?」
「!」
キッチンの奥で波絵が動揺したのが陽太にまで伝わってきた。
当然であろう、子が親にそんなことを言って動揺しないわけがない。
また陽太は自分でも、今なんてことを発言してしまったのだ、と心が揺れ動くほどに驚いていた。
「当たり前でしょ。冗談でも馬鹿なこと言うんじゃありません」
「……」
さっきまでの眠りのせいで思考回路がおかしくなっている。
陽太は一瞬でも馬鹿な考え(霧島の言い方を借りると『推理』)が浮かんだ自分を責め、明るい蛍光灯が輝くキッチンへと歩を進めた。
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