chapter 11 第3の審判-4

4  7月8日 掌握




 中央に大きな噴水がある公園の一角にベンチがある。

 その手前に平森隆寛は立っていた。

 この10分程の間、じっとベンチを眺めて立ち竦んでいる。

 公園では親子連れがチラホラと遊具で遊んだりしていたのだが、そんな平森の姿を捉えて以来、警戒し、子供を近づかせないようにしていた。

 平森はベンチを眺めてにやりと笑った。


「伊瀬君……僕は正義だ、裏切ったキミが悪いんだ。クズに堕ちた人間を救ってやるほど暇じゃないんだよ、僕は」


 そう言って手に持っていたバッドを思い切り振りかぶり、ベンチに向かって叩き付けた。


「はははははははははははっ!」


 何度も何度もベンチを破壊するかのように叩きつける。

 木製のベンチが折れ、傷付き、割れ、形が崩れていく。それは自らの周りの全てを砕き壊すかのように。フラストレーションを爆発させるかのように。

 狂い溺れ振り下ろし続けた。


「死ねっ! 死ねっ! 死ね! 死ね! 死ねえっ!」


 バッドが平森の手を離れ地面に落ちる。

 崩れた公園のベンチを見つめ、平森はただただ笑っていた。

 その微笑は徐々に空気を汚す狂った高笑いへと変貌していった。


「僕が正義だ! 僕が秩序だ! 僕が法律だ! 僕はこの世で一番偉い! 僕がクズ共を従える上流階級だ! あはははははははは!きゃははははははははははははははははは!」


 平森の悲しい慟哭にも似た笑い声は蝋の翼を纏い、そこに君臨する絶対的な灼熱の火輪を喰らおうと飛翔した。

 己が神になれると信じて。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る