chapter 8 推察 -4

4  7月5日 影




 夕陽が沈み、辺り一面を夜が覆う。この宵崎高校校舎もそんな夜の淵で静かに佇んでいた。初夏とはいえ、さすがにこの時間にもなると空は真っ暗である。


 3年1組担任の静間は職員室で一人残ってパソコン作業をしていた。

 今まで何事にも冷めた人間のように見える静間でも、自分のクラスから死亡した生徒が出たこの校舎で、こんな時間に残業というのは、億劫になるものがあった。

 もしかしたらカーストクラスになるまで放っておいた自分に対し、死亡した生徒が恨んで化けて出るかもしれない。

 幽霊という存在は基本的に信じてはいない静間ですら、そんなことまで考えていた。

 そして作業を明日に残して、帰宅しようとしたときだった。

 静間は背後から視線を感じた。ぞくっと背筋に悪寒が走った。

 そして、その悪寒を振り払うように勢いよく振り向いた。


「……! キミですか。どうしたのですか……びっくりしましたよ。驚かせないでください」


 そこには3年1組のとある生徒が一人立っていた。

 静間は安堵の息を吐いて、自分の荷物を整理し始め、帰宅の準備を始める。


「何か用ですか? こんな時間まで残って?」

「貴方は今、3年1組に起きている現象について何を考えていますか?」


 その生徒はそう言った。

 帰宅準備の手を止め、静間は生徒を見る。そして首を傾げ答えた。


「自分のクラスの生徒が立て続けに亡くなって、悲しまないとでも思っているのですか」

「貴方が悲しんでくれるなんて、珍しいですね、先生」

「随分、先生をひどい人間として見ていたようですね」


 静間は短い髪を掻き上げた。


「その3人の生徒の死亡に関して、です。まさか偶然だなんて貴方は思っていませんよね」

「……冗談でも言っていいことと悪いことが――」

「偶然じゃない、って今に気付きますよ」


 生徒は口元だけで笑った。


「何を言っているのですか?」

「まだ、これからも続く」


 そう言って、生徒は静間を睨みつけ、去っていこうとした。


「待ちなさい!」


 静間は生徒を呼び止め問うた。


「……何か知っているのか……?」


 生徒は奇怪な笑みを浮かべた。そして、


「『静間先生』、貴方も覚悟していたほうがいい。先生も3年1組の一員なんですからね」


 と、静かに笑った。

 生徒は振り返り、職員室を出て行った。

 その際、その生徒の首に掛けられたロケットがなびくようにしっとり揺れていた。

 静間は去っていくその生徒の後姿を見つめ続けた。

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