夜の街

 夜の街が好きだ。

 誰も自分を知らないし、みんな酔っ払っている。みんな友達でみんな他人。


 北の方の割と都会の市の学生街。私の生息地はそこ。

 冬になると芯から寒くて春が待ち遠しくなる街。学生がたくさん歩いていてそれでいていつもどこか気怠げな街。大きな通りが何本かあるだけであとは小道がいっぱい。その小道には、駄菓子屋だったり食堂だったり古本屋だったり小さなスーパーだったり居酒屋だったり、とにかく色んなお店が並んでいる。

 その中の一つ。小さな小さなバーが私の居場所。ここはそんな街。



 その頃の私はとにかく一人が寂しくてそれなのに群れるのが嫌だった。恋人に縛られるのも嫌だった。けれど誰よりも人のぬくもりを欲していた。


 バーに向かう為に家を出る。夜道は、夏は風が気持ち良く冬は星空が綺麗だ。そこにぽつぽつと灯る街灯の明かり。立ち並ぶすでに閉まったお店のシャッターやまだ人がいる食事屋から零れる光、そんなものを眺めながらてくてくと歩く。

 昼とは違う夜の顔。街もすれ違う人も。

 私も知らない顔をして夜の街を往く。



 夜の街で出会う人は、魔法みたいだ。

 日が昇ったら何もなかったかのように私の事なんて知らないかのように。


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