嘘の妹

 目を覚ますと、マリは広くて暗い倉庫のような場所にいました。辺りを見回すと知らない男の人が一人立っています。彼は「この空間には他にもたくさんの人間がいる。お前の顔見知りもいるだろう。その全員と殺し合いをしてもらう。生き残れるのは一人だけだ」と言うと扉を開けて去って行きました。


 殺し合いだなんて言われても実感が湧きません。恐る恐る扉を少しだけ開いてそっと様子を見てみると、たくさんの人がうろうろと歩いているのが見えました。ほとんどが見知らぬ他人でしたが、中には知っている人もいましたし、何より誰も殺し合いなんてしておらずマリと同じようにこの状況に困惑しているようでした。


 マリはすこし安心しましたがあの男が言っていた《生き残れるのは一人だけ》という言葉が気になります。今は誰も殺し合いをしておらず、知らない人同士で助け合い、出口を探したりしていますが、このまま出口が見つからなければいつかは誰かが誰かを殺してしまうかもしれません。そんな不安を抱えながらマリはもっと顔見知りがいないかと色々な部屋を覗いたり、歩き回ったりしました。


 すると、見慣れた小さな姿が見えました。それはマリと年の離れた幼い妹でした。マリはとても驚いて妹に駆け寄りました。妹はマリを見ると安心したように微笑みました。


生き残れるのは一人だけ。ならばマリは妹と一緒に帰る事はできません。もし殺し合いが始まって、運良く自分たちが生き残ったなら最後はどうすれば良いのでしょう。そんな疑問はありましたが、マリはこの幼い非力な妹を守るしかないと思いました。


 妹が狙われていないか警戒してマリは過ごしていましたが、一緒に過ごしている内に、マリの中に違和感が生まれました。


 この子、ほんとうにわたしの妹?


 一緒に過ごした思い出や記憶は確かにありますが、実感はありません。まるで映画のように、映像を見せられているだけのような記憶です。だんだん記憶にも矛盾を感じて、マリは妹に不信感を抱くようになりました。最終的に、マリはこの妹の名前すら曖昧であることに気が付きました。この子はマリに自分を守らせようとしていて、そして最後にマリを殺そうとしている……そう感じました。この妹は何者なのでしょう。正体がわかるのは二人で生き残ってからかもしれません。

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