天国への手紙

 たくさんの人の中に、毛布をかぶった弱々しいおばあさんがいて「この中に、絵を描ける子はいないかしら?」と周りに訊ねていました。周りの子たちは「マリちゃんです」と言ってマリを指を差しました。すると、お婆さんはマリの方を向いて「じゃあ、あなたにお願いするわね」と話し始めました。


 「わたし、もうじき死ぬの。そこで、わたしの棺に手紙を入れてもらいたいの。赤いインクでペガサスの絵を描いてくれないかしら。それを封筒に入れたら、封蝋を押してちょうだいね」そう言うと、お婆さんは間もなくして死んでしまいました。


 二時間後に出棺すると葬儀屋から聞いて、マリは慌ててレターセットとインクを買いに行きました。見知らぬ他人とはいえ、最期のお願いを託されたのだから上等な紙とインクを使った手紙を贈りたいとマリは思ったのです。


 しかし、赤いインク探しに難航しました。出棺の時間が迫って慌てていると、貧しい身なりをした褐色肌の男の子が「これをあげるよ。がんばってね」と言って細い筆をマリにくれました。マリは男の子にお礼を言い、筆を受け取りました。


 引き続きインク探しをしていると道の途中で赤いインクボトルを見つけたので蓋を開けてみました。中身は赤インクではなく、血でしたが、さらさらしていて明るい色をしています。


 マリは血のインクともらった筆を使い、ペガサスを描きました。それに短い手紙を添え、封筒に入れて封蝋を押し、急いで火葬場へ向かいました。もう出棺の時間が来ていましたがお葬式の進行に遅れがあったようで、手紙を棺に入れてもらうことが出来ました。


 数時間後——「おばあさんの火葬が終わったよ」と誰かがマリに教えます。マリの前を、お婆さんが載っていた火葬台がゆっくり通り過ぎました。


 おばあさんの骨は細くて弱かったのか、ほとんど灰になってしまったようで火葬板の上には、白い灰しか残っていません。


 そして後日、おばあさんの旦那さんが後を追うように亡くなったという噂を聞きました。奥さんが死んだことで生きる理由が無くなったのだとマリは思い、納得しました。

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