SF編

宇宙船えびす号

「うわああああああ~っ!」


 またしてもガバッと目覚めると、また見慣れない部屋に……結局まだちゃんと目覚める事は出来ないらしい。

 今度の世界はどこだ? キョロキョロと見渡すと、どうやらこの部屋は周りが無機質な人工物に囲まれている。病院? いや、もっと密閉されているような――って言うか、僕は大きなカプセルの中で眠っていたらしい――それに重力の感じも何かおかしい。


「もしかしてここは……」


 自分の置かれている状況を確認していると、突然部屋の自動ドアが開いて誰かがやって来た。


「キャプテン、起きました?」

「え?」


 目覚めたのを確認しに来たのはなんとサキちゃんだった。彼女はまるで宇宙船の乗組員のような服装をしている。起きたばかりで何も分からない僕はここで反射的に質問をしていた。


「こ、ここは?」

「やだキャプテン、寝ぼけてる? ここはキャプテンの指揮する宇宙船えびす号ですよ」

「あ……あ、そうなんだ」


 宇宙船だって? また舞台がえらく飛んだなぁ。さっきまで天上界とか魔界とかだったのに。

 で、今度の僕は宇宙船のキャプテンなのか……参ったな、出世しちゃったぞ。それにしても宇宙船の名前がえびす号って……(汗)。まぁ夢だから何でもありだけど。

 しかし宇宙か――この夢の着地点はどこなんだろうな――。


「キャプテン、来てください!」


 今度はまた別のクルーから何かの要請があった。取り敢えず行ってみるか。そうすれば今の状況も分かるだろうし……。

 それにしても初めて乗った宇宙船のはずなのに、その内部構造は不思議と頭に入っていて全く迷う事がない。流石は夢補正。


 でも、ああ……待ち受けているのが厄介なトラブルだったらどうしよう……キャプテンってアレだ、確か責任ある立場なんだよね。部下に色々指示したりとか……僕そう言うの苦手なんだよなぁ。ほら、猫って基本単独行動だしさ。

 これが犬だとわんわんって言って張り切ってそう……そう、例えばマロみたいな奴の方がこの役職って合ってるんだよな。


 と、色々考えている内にとうとうブリッジにまできてしまった。さて、一体ここで何が起こっているのやら――。


「あ、キャプテン、おはよう御座います!」

「おはよう……で、何があったの?」

「ついに到着したんです、念願の生物が存在する惑星に!」

「お、すごいな……」


 どうやらクルーからの報告はトラブルではなく吉報のようだった。厄介事が待っているのではなくて、ほっと胸を撫で下ろす。クルーのこの発言の様子から言って、多分この宇宙船の目的は生き物の住める惑星の調査なのだろう。

 僕は取り敢えずこの報告を素直に喜ぶ事にした。目覚めたらいきなりゴールだったみたいな感覚で、宇宙空間での冒険を体験出来ないのは少し残念にも感じたけど。


 ここから見えるその惑星は実に地球によく似ている。ベタなSFみたいにアレって実は地球なんじゃないかって思うくらいに。

 宇宙船の窓から見えるその惑星をじっと眺めていると、クルーから質問が飛んで来た。


「どうします? すぐ調査に向かいます?」

「うーん、まずセオリー通り無人機で安全を確認してからだろう、ここは」

「ですよね! もう準備は出来ています!」


 僕が判断を下すと、まるでその答えを予期していたかのような返事が返って来た。ま、ああ聞かれたら誰だって同じ判断を下すだろうしね。

 ここはあまり重い感じにならずに軽く流したんでいいみたいだな。みんなやる気になっているみたいだし任せよう。


「じゃあやっといて」

「分かりました!」


 しかしクルーのみんな、本当に嬉しそうだなぁ。きっとこの惑星に来るのが目的だったんだろうから当然かな。

 僕はすぐに自分の席に座って色んな情報を目の前の端末で調べ始めた――これも夢の中だからこそ出来る芸当だね。


 今までの夢だと、物知りな他人に色々話を聞いて状況を把握していたけど、流石舞台がSF、座ったままで何でも自分で調べられる。早速マウスを適当に操作してポチポチーっと。ふむふむ、何々……?


 えぇと、僕らは地球を出て生命の住める惑星の調査に出かけた、と。出発は今から30年前……ふむふむ、なるほどねぇ。みんなコールドスリープで眠っていて、最初のクルーが目覚めたのが今から一週間前。それから徐々に目覚めていって最後に僕がさっき目覚めてそこで全員目を覚ました、か。うーん、一番の寝坊助だったんだな、僕は。

 クルーは全員で27名――みんなそれぞれの分野のプロフェッショナルね、はいはい。


 調子良く色々分かったので、次はクルー全員のプロフィールを確認する。あ、これキャプテンの義務だから! 決して興味本位じゃないから!

 で、やっぱり知った顔が次々出て来るわ出て来るわ……顔は知っていて、名前の知らない人もこうして名前を知る事が出来た。いやぁ、テクノロジーの進化って素晴らしいね。


 でもおかしいんだ……サイトーさんやサキちゃんまでいるのに、この中に肝心のマロがいない? これ、どう言う事なんだろう? 今までの夢の皆勤賞であるあの腐れ縁の柴犬が、この夢に出て来ないなんて有り得ない……。この時点でちょっと悪い予感がしていた。

 確か今までの夢でヤツが敵として出て来た事もあったから――もしかして――。そんな悪い予感を取り敢えず胸に仕舞って、今はこのキャプテン業務を全うする事にする。


 その後、探査機での惑星の調査は順調に進み、特に危険がない事が確認された。そして驚く事にその惑星には文明の痕跡すら見つかっていた。

 しかし地上にはその文明を作った生物の存在は一向に確認されないままだ。うーん、これは一体?

 しかもその遺跡があったのは鬱蒼と木々の茂るジャングルの真ん中――上空からこの宇宙船で直接そこに行くのはちょっと無理そうだった。


「多分文明が放棄されて、その後そのまま木々が浸食していったものかと……」


 そう話すのはこの宇宙船のクルーで考古学者のユウキ君だ。彼はまだ10代なのに、考古学の天才としてこの船に乗り込んでいた。未知の惑星の事を調べるには柔軟な若い頭脳の方が有効だとの判断……なんだろう、多分。

 考古学は全くの専門外なので、ここは彼の意見に従う事にしよう。


「で、どうする? やっぱり調べたい?」

「当然です! ですが……」

「うん、そう……ちょっと危険だよね」


 彼もやっぱり未知の惑星の文明に触れる危険性を十分認識していた。それはまぁ当然だよね。

 でも目の前に絶好の研究対象があるのに、手をこまねいて見ているだけって言うのも歯痒い訳で……。そこでユウキ君はノーリスクよりリスクのある選択肢を選んでいた。


「でも、船にある装備を使えば問題ないとは思うんです」

「じゃあ行く? 僕も一緒に行くよ」

「え? キャプテン自ら?」


 僕が一緒に行くと言うと、ユウキ君は目を丸くしていた。だって部下だけをそんな危険な目に遭わせる訳には行かないじゃないか。それにこんな面白そうな話、乗らない方がどうかしてるよ。あの未知の遺跡をモニター越しに見ているだけで胸がワクワクする!

 僕はユウキ君の不思議がる顔を見ながらニカッと笑う。


「僕はねぇ、冒険が大好きなんだ!」


 探査船からの調査結果は、他にも色々な事を伝えていたけど、今一番重要度が高いのはやはりこの遺跡の事だった。遺跡の近くに知的生命体がいる可能性も高い。可能ならば彼らとの接触だって果たしたい。


 そんな訳で僕らの宇宙船はその遺跡に一番近い平地に着陸して、早速遺跡調査隊を組織した。大人数で移動するのも危険なので、僕が選んだ少数精鋭でそこに向かう事になった。

 メンバーはまずはリーダーの僕にサキちゃん、サイトーさん、コンドーさん、ユウキ君、シノハラさんの6人だ。


 サキちゃんは通信のオペレーターだけど、電子工学にも詳しくて冷静な総合的判断能力も高く――って言うか志願してくれたから来て貰う事に。

 サイトーさんは筋力担当で、後武器を扱う能力も高いと言う事で。彼の活躍がないのが一番だけど。

 コンドーさんは新進気鋭の植物学者で、この分野での若手の注目株――らしい。この惑星の原生植物について調査したくて志願してくれた。

 シノハラさんは同じく若手の将来有望な動物学者、志願の理由はコンドーさんと一緒だ。

 ユウキ君は――さっき説明したよね。若手で将来有望な優秀な考古学者。


 結局僕が選んだって言っても、みんな積極的に志願してくれて、その中から選抜したって言うのが正しいね。実際、志願者を募ったらクルー全員が手を上げたので、厳選するのにかなり頭を悩ませたよ。

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