第49話 一緒に帰ろう
翔子一緒に帰ろう。このメガネだけで、二人一緒に帰れるかわからない。これも壊れてしまっているのかもしれないけれど……翔子一緒に帰ろう。俺たちの場所に……一緒に帰ろう。博士ならなんとかできるとは思っていない。できるなら、『樹』にも何かしたはずだろう。だけど、置いてなんて帰れないよ。
死体と瓦礫をかき分けてようやく翔子の元にたどり着いた。博士の方を見るとさっきと同じように首はあらぬ方向にねじ曲がったままだった。
翔子を抱きしめメガネに触れる。
……
ダメか。壊れているんだろうか。……最悪な死に方だな。ここで俺はたくさんの死体と永遠の時を過ごすんだろうか。
あ! そうだった。博士の研究室では探知機は使えなかった。もしかして、これって壊れてなかったんじゃないか? 兵隊となった死体をおいて置く部屋の中で最後の方でようやく探知機が動きはじめた。そういうことか……ここで探知出来るなら俺たちはすぐにここに気づいていた。探知されないように何かしてたんだ。その機械がこの部屋にあって俺が打ちまくったせいで壊れたんだな。あそこに行けば帰れるかもしれない。
翔子……一緒に行こう。
俺は翔子を抱き上げて死体と瓦礫の山を通り抜けた。何度も死体や瓦礫に転びつまづいた。怪我だらけで疲労した身体でここを通るのもやっとだったのに、今は翔子を抱いている。
いつまでも続くかのような道がようやく終わった。出口に来た。廊下に出て翔子寝かせて一息つく。あと少しだからね。
廊下を翔子を抱いて歩いた。足場はさっきよりもいいけれどさっきの場所を歩いたせいで疲労が溜まっている。ふらふらになり壁に体を預けるよに歩きながらも翔子を抱いて歩いて行く。あの部屋まで。さっきの場所まで行かなければ……。
しまっている扉を開ける為に一旦翔子を置く。扉を開ける前に息を整える。扉を背にして座り込む。
ハアハア
なかなか息が整わない。翔子と早く帰りたい。あの場所に。それからどうするかなんて考えてはいない。だけど、なんとかしたいんだ。このままなんて考えられない。
少し呼吸の乱れがおさまったみたいだ。立ち上がりボタンを押す。一面に広がる死体と瓦礫の山。目指すは次の部屋の扉の前。あそこで探知機が作動した。本当に使える見込みなんわからないけど今はそれしかできない。翔子を抱き上げて前に進む。
出来るだけ何もない場所を選んで進む。また永遠とも思える時間が過ぎて行く。
ハアハア……ハアハア
「ハアハア……翔子……もうすぐだよ。一緒に帰ろう。もう戦いは終わったんだ。翔子ゆっくり眠れるぞ……ハアハア」
ハアハア……ハアハア
ようやくたどり着いた。ここで動かなければ探し回るまでだ。時間は嫌っていうほどあるんだから。俺にはタイムリミットはないみたいだからな。
次の扉の前に空いたスペースに翔子を抱いたまま座り込む。
「ハアハア……着いたよ翔子。さあ、帰ろう」
ハアハア
息は乱れているけれど後は帰るだけだ。俺はメガネのボタンを翔子を抱きしめたまま押した。
グワーっと引っ張られる感覚。傷口をえぐられる。俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。
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