第86頁目 ― 42 ― 幸福 ―

   ― 42 ― 幸福 ―


 勇次はその場に倒れ、巨大怪物から勇次の姿に戻った。

 息を絶ったのか?

 倒せたのか?

 倒したのか?

 だけど、勇次が息をしているようには思えなかった。

 たとえ勇次が殺人犯だとしても、あたかも何も無かったように、この無人島で息を引き取ったことにしておくのか?

 でも、戦いは終わった。

 これで平和な生活が迎えられる。

 ちょっと、いまいち勇次が何故?巨大怪物になった理由が分からなかった。

 それほどオレは興味がないので探らないようにしておこう。

 きっとこのまま、謎のままで終わる事だろう。

 

 オレが勇次の倒れている姿を見ていると、アフロ教授がオレの肩を叩き、

「この22年間の長い戦いは終わりました。藤沢さんありがとうございます。真菜美を守っていただいて」

 と笑顔を見せた。

 その時、アフロ教授が初めてオレの名前を呼んでくれた。

「約束通り、勇敢なあなたに、わたしの娘を授けます。大事にしてください」

 えっ?!

 なんの話しだ?

 真菜美さんを授けます?

 はぁ?・・・


 そして、喜びながらオレに抱きついてくる真菜美さん。

 ちょ、ちょっと何だか意味が分からないが、

 悪い気もしない・・・

 で、でも、どうなっているんだ?



「まだ、思い出しませんか?」

 えっ?えっ??

 アフロ教授、いったい何を言っているんだ?。

「実は、藤沢さんの記憶は、わたしが消したのです。何事にも無関心な藤沢さんの脳の中の記憶を・・・」

 すると、アフロ教授の声がオレの脳の中に、入っていく・・・

「あなたは、最初から真菜美と付き合っていたのです。

 でも真菜美にも無関心だった藤沢さん、あなたの脳の記憶をわたしが消したのです」


 記憶を消した?・・・

 えっ?真菜美さんに無関心?

 そのうちに、アフロ教授の声が遠ざかって行った。


 ----- それから何時間が経過しただろうか?。

 アフロ教授の何度も呼びかける声が聞こえてきた。

「起きてください藤沢さん・・・」


 オレはアフロ教授の声に目覚め、起き上がる。

「あ、あれ?。こ、ここは?」

 起き上がると、アフロ教授が笑顔でオレの顔を見る。

「藤沢さん。どうでしたか?記憶をなくした感想は?」

 ベッドの上で目覚め、アフロ・・・いや、永遠眠(とわに)教授。

 えっ?

 どうなっているんだ?

「夢でも幻でもありませんよ。藤沢さんの記憶を無くし、度胸を試して見ました。わたしの真菜美は、藤沢さん。あなたのものですよ。結婚を許します」

 訳の分からない事を笑顔で言ってくれる、永遠眠(とわに)教授。


 その時、徐々にオレの記憶が蘇ってきた。

 あっ、

 そ、そうだ! 思い出した。オレは真菜美と恋人同士なんだ。


 ---- そ、そうだ、思い出したぞ。

 いつの日も心にお互いの生活に不安を抱いている真菜美をオレは喜ばせなかった。

 最初のうちは毎日が楽しくてしょうがなかった。

 一緒に外食したり、買い物に行ったり、映画を見たり・・・

 そのうちに、俺の仕事がいきなり忙しくなり、少しずつ逢わなくなり、

 二人の間に距離が生まれた・・・

 真菜美はそのうちに、オレの愛から遠のき、心に鬱が迷い込んだ・・・

 オレは、毎日の仕事で真菜美を独りにさせた事で悩んでいた。

 真菜美は鬱がひどくなり、倒れるまでに至り、そして、入院してしまった。


 オレは、仕事の合間を縫っては、真菜美を元気づけるために、お見舞いに行っていたが、真菜美は一向に元気にならなかった。


 そしてオレは自分に自信を無くし、永遠眠(とわに)教授に記憶を消してもらったんだった。

 何もかも現実から逃げ出したかった。

 どんどんと鬱が進む真菜美に申し訳なくて、新鮮な気持ちでふれあえるようにと・・・


 でも、あれ?、あの住民たちは何だったんだ?

 けど、オレの記憶には、真菜美以外の記憶が色々と残ってる・・・

 オレは疑問に思い、永遠眠(とわに)教授に聞いてみた。

「まあ、なんていいましょうか・・・あのアパートも、勇次もわたしの身の上話しも全て事実です」

「そ、そうなんだ。夢ではなかったんですね」

「藤沢さん。あなたの職業は何ですか?思い出せますか?」

 永遠眠(とわに)教授がオレに問う。

 暫くまっ白な記憶の中に、職業の記憶が現れた。

「あっ、オレの職業は、ロボット開発オペレーターの製造長をしています」

「正解です。記憶が戻りましたね藤沢くん。

 ただ、違ったのは、わたしと藤沢さん以外全てロボット・・・いやヒューマノイドだったと言う事ですよ。羽美はミュータントだったのですけどね」

 えっ?・・・えええぇぇぇぇ!!。

 住人のみんながロボットだったんだ!。

 改めてオレは驚いた。

 住人全員がそうだったんだ。驚いたよ。すごく。

 そ、そういえば、永遠眠(とわに)教授では無く、永遠眠(とわに)社長だ!

 永遠眠(とわに)さんは、オレの勤める会社の社長さんだと言う事を思い出した。

 おお、、、どんどんと記憶が蘇って来たぞ!。


 社長の娘さんと付き合う以上、男として度胸が必要だと・・・

 今までの事を忘れて、初心に戻って何かを見つけてくれと言われて、

 自分探しの旅に出ていたんだ・・・

 それも身の周りでの旅を。

 そして、真菜美との愛を取り戻したんだ。


「藤沢くんは、娘の真菜美にふさわしい人物だと判りました。わたしからお願いします」

「は、はい判りました。真菜美さんはオレが守ります!」

 オレは元気な声で応えた。

「実は、真菜美の鬱で入院も演技だったんですけどねw」

 げっ!、マジですかぁぁぁ!!

 ウソだったんですか~~

 オレを2人してダマしていたんですか~~!


「優紀くん、だぁぁぁーーーいぃぃぃ好き♥」

 真菜美が、弾けるような可愛い笑顔で、オレに抱きついてきた。

 ま、まぁいいかあ、そもそも相手できなかったオレが悪いんだからな。

 でも、なんだ?。この幸せな気分は?

 幸せ気分なオレは、そっと真菜美を抱き包み込んだ。

 このラブラブな抱擁が5分は続いた。


 これからは、真菜美を大事にしなくちゃな。

 この会社の永遠眠(とわに)社長。とても逃げ出したい会社なのに、もう逃げられなくなってしまった。


 そして、オレと真菜美の間に、改めて強い愛が産まれた。

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