第93話 最後の宴

 現場を引き継いだ私は、セブからマニラに戻ってきていました。

 あとは帰国するための準備をするばかりです。


 夜、Sさんといっしょにいつものカラオケ屋に行きました。

「しばらく。元気だった?」

 私にはとうぜんG嬢がつきます。

「まあね」

 しばらく当たり障りのない会話をしたあと、私は切り出しました。


「じつは日本に帰るんだ」

「え、どれくらい?」

「もう、帰ってこない」


 一瞬、彼女の顔が、ぴきっと引きつったように思えました。


「なんで?」

「いつかは帰るはずだったんだ。それが来たんだ」


 彼女は私の現地妻とかそういう関係ではありません。だから、どろどろした展開にはならないのがさいわいです。


「さびしくなるね」

「ああ」


 このとき、どんな会話をしたのか、正直よく覚えていません。

 ただ泣いたり、怒ったりといったことはなく、いつもと同じように、飲み、歌い、宴を楽しみました。

 もちろん、「日本に来ないか?」などという台詞は吐きません。

 いつもと同じ感じで、最後に店を出ました。


 帰りの車の中で、Sさんが言いました。

「おまえ、帰ったら、Gを指名していい?」


 こ、この男はぁあああ!


「だめです」(きっぱり)

「あ、そう、わかった」


 まあ、それくらいは言ってもいいよね?


 

 数日後、私は日本に向かう飛行機に乗りました。

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