　お施主さんからこんな申し出がありました。

「タイ工業にいかないか？」

　その企業は、フィリピンの前にタイで工場を作っていて、そこはすでに稼働しています。

　私と設備担当のＯさんにタイまで見学に来ないかというありがたいお申し出です。

「おおお」

　盛り上がる私とＯさん。

　仕事で海外からべつの海外へ出張するって、なんかエリートっぽくね？

　なにせこの当時、私は海外と言えばここフィリピンと、この前行ったパラオしか行ったことがありません。

　タイ。おお、よく知らんけど、なんか素敵じゃね？

　ただ、フィリピンと違って、タイは基本的には英語が通じないらしいけど、だいじょうぶなんだろうか？

　でも食い物はフィリピンよりうまそうだな。辛そうだけど。

　もはや、友達と海外旅行の計画を立てるＯＬと変わりません。はしゃぎまくっております。

　観光じゃねえだろ？　仕事だろっ！　というつっこみは禁止です。

　しか～し、そこに横やりが入りやがりました。

　Ｓさんです。

「南野、おまえは現場見てろ。タイには俺とＯで行く」

　マジっすか？　マジっすか？　もう一度言うけど、マジっすか？

　ほんとこの男はもう！　あんたが行ってどうすんだよ？

　しかし、私をおいて彼らは旅立ちました。

　この話にはじつはもうひとつ、裏がありました。

　それを知ったのは、彼らがタイから戻ってきてからです。

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