初ミッション④-2-2

「ガゥウゥ」


飛んでくる火の玉に反応し虎が横に飛ぶ。一瞬回避されたかに見えたが。


「あまい!」


火の玉は方向を変え、速度を増し虎の胴体に直撃した。途端虎の胴が燃え上がり、その体が炎に包まれる。


「みなさい! 直接魔術が使えなくても私には魔道具があるわ!」


アンジェリカが会心の笑みで叫ぶ。確かに彼女の一撃で虎が火だるまだ。しかし――。


「見なさいってお前……自信満々なところ恐縮だが、ご主人様の魔術は虎の毛を焦がしただけだったようだぞ?」


火だるまになった虎が炎を消そうと地面を転がる。それによって最初こそ勢いのあった炎もだんだんと弱まり、虎が地面を十数回ほど転がったあたりで完全に消えてしまった。


どう見ても虎は軽傷で戦意の衰えもない。いやむしろその目に新たなる闘志を宿したようにさえ見える。


――さて。どうしたものか。


獣を炎で恐怖させるどころか逆にやる気を引き出してしまうとは。この場合、大人としての私はどんな言葉をかけてやるのが正解なのだろう。


虎が体勢を立て直している一方で、アンジェリカといえば剣の柄から握り口を分離させ、握り口側に何やらごそごそと作業をしていた。どうやら力の源になる晶石の詰め替えをしているようだ。


――一回魔法を放つごとに弾を込める必要がある武器なのか。


銃口装填マズルローダー型とは暢気なことだ。実戦を想定していない欠陥武器を手にあの自信。その挙動はまるで机上の計算ばかり得意な頭でっかちな新兵のそれだ。


――虎が一頭であれば、或いはそれでぎりぎり二撃目を用意できたかもしれんな。


だが現実はそうではない。彼女の元には別の虎が迫っている。


私は動かずに、作業にまごつくアンジェリカをじっと見守る。


「え?」


アンジェリカの左手側から無傷の虎が猛然と襲い掛かった。魔道具の柄に持ち手をはめ込んだばかりのアンジェリカが、かろうじて体を引きそれをかわす。しかし無理な体勢を取ったためか彼女はバランスを崩し、よろけて尻もちをついてしまった。


普通ならそれで詰みだ。だが結果的に、それは奇跡的な回避運動となった。その動きは間違いなく偶然の産物だが、彼女の立っていた頭の位置を――勢いよく遠くから駆け飛び掛かってきていた――三匹目の虎が通り過ぎる。


何たるラッキー回避か。我が主人はなかなかの強運の持ち主のようだ。


とはいえ危機が去ったわけではない。今まさに別の虎が彼女に向かって突進をかけている最中である。


――次はどう対処する? 


四頭目の虎がアンジェリカの首にかじりつくため走りよる。そのジャンプが正確な軌道を描けば必中であろう。


「きゃあぁ!」


アンジェリカは剣を前に構えた。――が、それだけだ。魔術を発動させる素振りは無い。彼女は悲鳴を上げるとともに固まってしまった。


恐怖に負け、両眼をつむり縮こまっていた。


虎の体が宙に踊る。



〈―― 波拳ウェイブファウスト ――〉



四頭目の虎は、まるで攻城投石機の放った巨石にでもぶち当たったかのようにひしゃげ、その場から鋭く弾き飛ばされた。


と同時に、突如発生した衝撃波が大気を震わせ、今にも襲いかからんとしていた周囲の虎たちの毛皮を撫でた。


一瞬にして伝播した未知の振動が虎たちの生存本能を煽る。恐怖を駆り立てられた虎たちがその場で身をすくませた。


「すまないが、そこまでにしてくれ」


既に反撃の為飛び出してしまっていた一頭目の虎が慣性に逆らえず私の前に現れる。アンジェリカを庇える位置に身を滑らせた私から見れば、宙に浮く虎は必殺の間合いのど真ん中だ。


私は虎の首あたりに拳を叩き付け振り抜いた。



〈―― 波拳ウェイブファウスト ――〉



体全体をひしゃげさせた虎が、四頭目と同じようにその場から鋭く遠くへと弾き飛んでいく。


「……――え?」


アンジェリカがその光景に目を見開く。守護天使の起こした物理的な奇跡を目の当たりにした彼女は、うわ言のような情けない音を漏らした。


「さて。ここからは私に任せてもらっても構わないな? ご主人様」

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