異世界の洗礼②-2-2
――ふむふむ。この洗礼はあのメンヘラ女へのいじめの延長だったか。どこの星系のだったか、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという
私に対する純粋な歓迎でないとわかった途端モチベーションが消えた。
場が一気に陳腐化する。三流ドラマの王道筋書に放り込まれた虚脱感。何処からともなく呼び出された未知な存在への現地学生の挑戦、というバックボーンがあったから高い娯楽性を堅持しえたのにこれでは台無しだ。
「早くやり直したまえ。……どうしたのかね?」
「…………」
「何だい? どう言えばいいかわからないかな? じゃあ薄汚いリモージュ家の犬にも覚えられるよう簡単な言葉にして僕が教えてあげよう。まずはこうだ「愚かな私めの不注意でご迷惑をお掛けし申し訳ございません。お怪我はございませんでしたでしょうか」ここまで。さぁ、言ってみたまえ」
つまらん。とにかくつまらない。
子供らの心意気は評価できる。あの糞生意気女は疎まれてしかるべきだろうとは私も思う。
だが所詮はただのいじめだ、しかも間接的な。こういう題目に私をキャスティングしたのはいただけない。
そもそも私は、金次第でどんな役割も演じてみせる
「愚かな私めの不注意でご迷惑をお掛けし申し訳ございません。お怪我はございませんでしたでしょうか」
「うんうん。それでいい。じゃあ次は――」
「おや、これは大変だ。お怪我をされているではありませんか」
「え? なに、どこだ?」
「ここですここ」
なので脚本に逆らい駄目なアドリブも入れてしまう。
私はこめかみを人差し指で指しつつ言う。ちなみに脚本を軽視するのは演劇素人あるあるらしい。
「早くお医者様に診てもらってください。お前の凡愚な頭を」
その一言で、周りが凍りついた。
にやにや薄ら笑みを浮かべていた外野連中から、さー、っと笑みが消えていく。
「……どうやら君は、貴族への敬いが足りないようだね」
少年は一度苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたものの、周りの目を気にしたのかすぐに取り繕う。そのまま余裕を装った態度で両手のひらを上にし、わかりやすく肩をすくめてみせる。
「ほう。お前に敬うべき所があろうとは。私の目は怪我でもしたかな?」
「……く。いやぁ何、君の場合、医者の手を煩わせる事はないよ。村人の教育は貴族の務めでもある。僕が特別に、君に見せてあげようじゃないか。貴族が敬われる理由というものをね」
彼は身をひるがえし私についてくるよう告げる。するとすぐに私は後ろから二人の少年に腕を掴まれた。
「っ?!」
「っ!?」
――ぁ。
無礼千万――無意識でなで斬りにしかけた自分を抑える。
殺気でも感じたのか二人の少年は一瞬ビクッと体を震わせたが、不思議そうにお互いの顔を見合わせた後、もう一度私の腕を――今度はおっかなびっくりというていで――触る。しばし互いに何もないことを確認し、彼らはもう一度私の腕を掴んだ。
――いかんな。思った以上に子供の筐体は敏感だ。注意せねば。
先ほどの授業での情報、そして今までの観察から、私が心の隅で「魔法は脅威だが、使われる前に惑星住民を殺し尽くせる」と思っているのが出てしまった。
とはいえ、ここは帝国圏ではなさそうだし、そもそも私としてはあのメンヘラがどうなろうと知ったことでは無い。むしろ静観を決め込みたいくらいだ。
だがもしも。私がどこかで監視されていたとしたら。
魔法についてはだんだんわかってきたが、拉致の謎と監視の有無についてはまだ何もわかっていない。つまりここで動かないのはリスクでしかないのだ。それが例えあの心を病んだクソガキに対してであっても、帝国世論は彼女の救済を求めるだろう。いじめた側への厳しい裁定を求めるだろう。帝国臣民は前途ある若者らへのあらゆる教育を期待する。
――面倒だが、お灸を据えるくらいはせねばならん。
それが、私が大人しく連行されることを選んだ理由である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます