シラトラ
亥BAR
プロローグ
プロローグ
「アーマーシステム〇一、適性審査テスト、被験者ナンバー一三。泉亮人(いずみあきと)。……、亮人君。準備はいいかい?」
「……はい」
亮人はゆっくり息を吐くと右手首につけられた小型の機械にタッチする。それと同時にその機械から冷たい女性の声が入った機械音が流れる。
『アーマーシステム・スタンバイ』
手首から機械音が鳴り始め、目の前にいるこの実験をチェックしている博士たちが慌ただしくコンピュータのディスプレイを見始める。そのうちの一人が何かを確認すると少し後ろで腕を組んで亮人を見守る人物に顔を向けた。
「システム異常なし」
続いて別の人が同じく顔を向けて「脈拍、体温共に正常値です」と言い放つ。それに対し、腕を組む人物は顔を小さく頷いた。
「よし、亮人君。進めたまえ」
それを合図に再び手首の機械にタッチ。
『システム・オールグリーン・プットオン・スタート』
少し軽快な感じに女性の音声が鳴り響くと、周りに白い鎧みたいなものが次々と形成されていく。
「アーマーパーツ、出現しました!」
「よし、装着開始」
瞬く間に鎧、アーマーパーツが体に吸着していく。頭、胸元、腕、腰。そして、視界に透明のディスプレイが映し出されると、亮人の眼には少し赤みがかった世界に変わる。アーマー装着完了の合図である《MISSION START》の文字が一瞬表示され、体中にシステムの恩恵を受け始めた。
「システム、継続中、異常なし」
「体温、脈拍、共に正常値を保っています」
「よし、いいじゃないか、亮人君。では、仮想標的を出現させる。亮人君は目の前に現れるグラフィックの敵を叩いてくれ」
目の前と言ったが少し視界の右側に出現する仮想標的。でも、あせらずゆっくりと手首の機械を操作すると右手を胸の前あたりに持って行った。
『サモン・タイガバスター』
音声が流れ、目の前に両刃剣が出現。握ると同時に再び『ソードモード』という音声が流れ、剣を大きく振り払った。敵に向けてロックオンを掛ける。だが、その時、亮人は自分の精神面の弱さに疎みを感じ、顔を歪ませた。自分でも分かるぐらい明らかに脈拍が上がっている。
「脈拍、体温、上昇しています。精神状態が不安定です!」
「くそ、やはり無理か!」
耳に博士たちの声が届く。次の言葉は予想できた。
「亮人君。これ以上は無理だ。すぐにアーマー解除したまえ」
その予想通り。しばらく歯ぎしりしたが、視界に移る《CAUTION》つまり警告と言う文字を眺めて舌打ちをした。
「嫌です!」
「な!? 何言う!? やめるんだ。そっちがしなくても、こっちで無理やり解除するぞ」
それをしっかりと耳にしながらも解除される前に……、そんな気持ちの元、手首の機械、タッチパネルを操作する。
『ブレイクファンクション・スタンバイ』
耳には博士の「やめろ」の声が何度も響いた。でも、それでもやめる訳にはいかない。亮人には確かに硬い意思があった。剣が青白く光りだし、エナジーチャージが開始される。でも、そこまでだった。視界に移るのは冷徹な《ERROR》の文字。突如、右手にとてつもない衝撃が走り始めた。
「脈拍、安全圏をオーバー! 余りにも危険すぎます!」
「何をやっている。こっちで早くシステムを解除したまえ!」
亮人の意識はもうろうとし始めていた。まるで理性が遠のいていくような感じ。体はいたって普通に立っているはずなのにまるで亮人自身がそこにいない感じ。ただ、右手を中心に走る衝撃だけがやたら鮮明に残りながら。
だが、やがて意識が遠のいていき、最後に『システムダウン』という女性の機械音が聞こえると共に意識が完全にシャットダウンした。
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