第19話 衝突
五十嵐は、休憩していた整備士達に怒鳴り散らしている。
それを見た稲穂が愚痴をこぼした。
「やれやれ、これだから本部様は。まったく休みなしで働いてたら肝心な時に人間が潰れちまうってのに」
「彼は、元はここに人間ではなかったんですか?」
「ああ、ナイトメアの襲撃でこっちのは大勢死んじまったからな、補充として送られてきた。それが気に食わなくて、ああして連中に当たってるんだ」
ディエスの他にもやっかまれている人間がいたとは。
ここの組織支部、よく今までやってこれたな。
逆に考えれば何とかしてやってきていたけど、もう駄目になりつつあり限界……といったところなのだろうけど。
切迫した状況、希望の見えない世界、倒れていく仲間達……。
それらが複雑に絡まり合っているこの現状、もっとはやく壊れていてもおかしくはなかったのに、今まで持ちこたえてきていたのは奇跡的な事なのだろう。
支部でこんな感じだったら本部は大丈夫なのかな?
「何事だ、整備室で騒いでいるのは。……五十嵐隊長? なぜ、こちらに?」
そんな事を考えていると、呼ばれてきたらしい美玲が顔を見せる。
「なぜ、だと? 重要な作戦の前に組織の人間たちに、のろけている暇などないと叱咤していくのは上の役目だろう」
「今は休憩時間ですが、彼らは彼らなりの判断で休息をとっているのです、そこに私たちが口を挟むのかいかがなものかと思いますが」
「知ったような口を聞くな。貴様らはこの作戦の重要性がまるで理解できていない!」
つばをまき散らしながら、ヒステリックに叫び返す五十嵐は周囲の冷めた目に気が付いていない様だった。
たぶん、この男は自分の事しか見ていない。
周囲に距離を置いている佐座目よりも、……もっと。
五十嵐の作戦の重要性とは、華々しい成果をあげて本部へもどる事のみ……ではないのだろうか。
そう考えていると、佐座目の近くに理沙が寄って来る。
「嫌な奴」
「ほんとですね」
「アンタも大概嫌な奴だけど、あいつより何百倍もましよ」
「ありがとうございます」
「誉めてないわよ」
上司への陰口をたたき合う形になってしまっているが、当人はもう周囲の様子には目もくれなくなっているのだから、問題ないだろう。
「貴様等がそういう態度であるならば私にも考えがある、組織をぬけた腰抜けどもを呼び戻して、作戦で名誉ある先陣を務めさせてやる」
しかし、次の瞬間五十嵐の口からでた言葉に、周囲の空気が変わった。
怒り、だ。
向かい合っている美玲もだが、整備班の人間達もはっきりと分かるほどに怒りを表情に表している。
その心情を代弁するように美鈴が食って掛かる。
「……っ! 正気か、彼らにはもう戦う力など残っていないのだぞ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ! 貴様らこそ、正気か! 出せるものは全て出し尽くし、使えるものは全て使う! 我々の未来がかかっているのだぞ! 全力で事に当たるべきだろう」
「っ! それで勝利を手にしたとして、私達は笑ってそれからこの世界を過ごせるのか!?」
「過ごせるさ! ナイトメアどもさえいなくなれば、人ならまた増える」
あ。
佐座目でも分かった。
この男は疑いようもなく正真正銘の人間の屑だ。
鐘や権力に目をくらませて、人の命について微塵も考えたことのない、ただの愚か者だと。
佐座目は理沙の制止を無視して、五十嵐の前に歩み出た。
「ちょっ、ちょとアンタ……」
「戦力が足りないのといのなら、僕がその分働きますよ。良かったですね、これで解決です」
「ディエス、貴様また私の邪魔をするつもりか。前の作戦もお前のせいで……」
前の作戦?
何かあったのかな?
でもどうでもいいや、今はそんなこと。
「前のディエスの力より、僕の力の方が何倍も強いということを証明して差し上げます」
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