第9話 変わらない二人



 ミーティング終了後に美玲に声をかけられた。

 その横にはアルシェもいる。彼もこの部屋の中にいたのか。


「ディエス、一応聞いておくが今回の作戦の重要性を理解しているか?」


 美玲は周りに聞こえないようにして、顔をよせて声を低くする。

 近いですよ。

 たまたま近くにいた他の人間が嫉妬するような視線をよこしてくる。

 口調こそぶっきらぼうなところがあるものの、美玲は見た目が美人だ。

 ディエスなどとは違ってお近づきになりたい人が多くいるだろう。


「はい、まあ一応自分なりにですけど」

「失敗したらどうなる」

「自分達が吹き飛びますね。世界の未来と一緒に」

「それだけじゃない」


 彼女は表情を曇らせるが、つまり何が言いたいのだろう。

 まだ自分は作戦に参加するとも、しないともいってないのに。


「いや君は参加しなくちゃいけないよ。記憶があろうとなかろうと。何せ貴重な戦力だからね。そうだろう?」


 声がして振り返るとそこにはアルシェがいた。

 視聴覚室の引きこもりみたいに言われていたので、こうして別の場所で姿を見ると少し驚く。

 まあ、彼もここにいるのだからエージェントではあるし、任務はしているのだろうけど。


「アルシェ……それは」

「君達には怪我人を正しく慮っている余裕などない、違うかな」

「確かに、そうだが」


 つまりはもう佐座目が作戦に参加することは確定していることらしかった。

 困った、

 ディエスの能力なんて分からないし、発動させられるかどうかまだ確かめてないのに。

 そもそも中身が違うこの場合は異能の力がどうなるのかも分かっていない。


「まあ、さっきの様子から見ると困るのは分かるね。困っているようだったら力を貸すとは言ったけど、この分じゃ僕の方が困るから、何とかした方がよさそうだ」


 もしかして、危機感のなさを指摘されているのだろうか。誤解だ。僕は、それなら十分に持っていると言いたい。


「周りの人間をよく見てみろ」

「……ひどい顔してますね、皆さん。さぞかし大変な心境なのでしょうね」


 まるでこの世の終わりのようだ。

 精神的苦痛で死んでしまいそうな顔をしている。

 そこまでか、と奇妙な感じを受ける。


 自分の命と世界の命運がかかってる。

 それがどうしたのか。

 死ねば終わりなんて、生命は皆いつもそうだろうに。

 まあ、自分の失敗のせいで他人に損害がでるのは少し心苦しくはあるが。


「お前はやっぱりディエスだな」


 そんな事を考えていると美玲によく分からない納得をされる。


「ついてこい、効果があるかどうかは分からんがこれも必要なことだ」


 美玲が歩き、ついてくるつもりらしいアルシェがそれに続く。

 向かったのは施設の外、町中だった。


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