地球の代表者の話
UFOがわーっとやってきて、そいで、まああとは大体お決まりの流れになったわけですね。混乱と協力。だからトータル的には平和側に寄った。良かったね。
ただこう、バイオレンスなアクションは全然なくて、彼らは紳士的だったし地球語もちゃんと学習して来てくれてて、肩透かしっていうかそんなん。
記者会見の場では、「ワ・レ・ワ・レ・ハ・ウ・チ・ュ・ウ・ジ・ン・ダ」ってちゃんとやってくれてひと笑いすらとってくれて。おお、いいヤツじゃんか、ってみんな思った。
だから総じて良かったんだけども、一つだけ問題があった。地球の代表者を決めれとこう来たわけですね。もちろん彼らは民主主義という制度をよおく(たぶん地球人の誰よりも)理解してくれて、主権というのはみんなにある、ってことは分かってくれている。だども、全員といっせのせ、で話し合うってわけにはいかないから、ま、一人代表者を立てておくんなまし、とこう来たわけです。筋が通ってる。理に適ってる。何に困ったの? っていうと時限なんですな。
向こうの言い分はこうだった。
「地球、結構いい感じになってきてると思います。でも、アレなところも結構あります。なもんで、こっちの時間で1年くらいちょっと視察させてもらって、プラス、そのあと私が代表者と話し合って、いい感じ性を判断します。いい感じ度が高ければ、これはもう銀河連邦に招き入れて我々の技術を惜しみなく与えましょう。で、いまいちだったらまた来ます。次は、そうですね、地球の時間で言ったら2万年後くらいかな。みんな生きてるといいね。ナハナハ」
まあ二万年後だと全滅必至じゃあないですか。少なくとも現生人類は。次の次の……世代は知りませんけども。俺らはやっぱ俺らが生きてるうちに宇宙人の技術を享受したいじゃあないですか。なのでちょっと焦ったわけですね。
そいでまあ、とりあえず各国代表者が集まってじゃんけんかなんかで地球代表者を決めた、のは良いけどもそれがたまたま極東の島国が勝っちゃった。いやまあ、そんなめっちゃ悪い国ではないから誰も反対はしなかった。表立っては。ここでほら、暴れたりしてそれで宇宙人、「うわーバッドな感じ」ってなって帰ったらヤバいじゃあないですか。だからみんなにこにこして。手なんて叩いて。でも内心やべーな、ってちょっと思ってた。
ってのは、その国の代表者は、しばしば舌禍事件を起こすんですな。余計なことを言っちゃう。言わんでいいことを言ってしまって、それで揉める。万一ですよ。宇宙人の前で、ジョークのつもりですげー差別的発言とかしたらどうなる? これが美味しんぼだったらですよ。牛タンを片方だけ焼いて食えば万事解決ですが、相手は宇宙人だから。牛タンだしたらめっちゃ途端にキレだして、地球を最終戦争の炎で包んで帰っていく可能性まである。それはまずい。牛タンはうまいけどね?
ま、差別、というのは良くないことってのはみんな知ってる。でもね。これも一応のメリットはあるわけですよ。メリットがあるからするんですね差別。ってのは、人間、初対面の人に会うことがあるわけじゃあないですか。接客業なんてやってたらしょっちゅうですね。この時にだ、いちいちそれぞれの人間に対して虚心坦懐に、なんの前提情報もなしにいちから情報収集始めたらどうなると思います? まあパンクですわな。
だもんで、我々は「ああ男のように見えるな」「女っぽい見た目だな」とかまずそういうざっくりした判断をして、で、例えば化粧品屋に男が来たらですよ、本来的には、「来店した人物が物品を使用する」という前提で話すのがなんていうの? 差別的でない発言というかね。フラットな発言かもしれない。でも、「ま、プレゼントやろな」と判断して、で、年齢に応じて、たとえば30代とかの男が来たら、「奥様にプレゼントですか?」って聞く、みたいにしてるわけですよ。
もちろんたまにはミスる。このやり方は。
「私は女性装が趣味で、それで化粧品屋に行った。で、『奥様にプレゼントですか?』って言われたから、『いや、自分で使うんです』と言ったら、奇異な目をされた。もうあの店には行かない」
なんてな発言ツイッターであったらひと盛り上がりしそうでしょう。
「そらするわ。そこは気を使って『はいそうです』くらい言っとけよ」
とか発言した人がぶっ叩かれて炎上しますわね。で、
「私はお客様は平等に扱うのでそんなことは絶対に言わない。男性だって化粧をするといいと思うし。その店員は頭がおかしい」
「いやそこで『だって』って言葉を使うのが差別主義者だ。お前は非差別主義者を気取って最も差別的な発言をする最大の悪人だ」
ぎゃあぎゃあ。ってなもんじゃあないですか。
さりとてですよ。では虚心坦懐、その人間を完全にフラットに見て発言する人とかを改めて探してこーよお、ってした場合どうなるか、っていうとこうなる。
「いやねえ。あたしも年でねえ。もう見てよ、肌がずったぼろでしょう」
「確かにそうですね。お客様は42歳ということですが、肌年齢は58歳となっております。これはずったぼろ、とまでは申し上げませんが、かなりひどい状態です」
「なんて失礼なの!」
詰んだ。無理ゲー。人類おわた。
だからもうこれは人間の認知システムに起因する問題である、ということに皆さん気づいたんですね。そら人間もバカじゃあないから、1年猶予が与えられればみんなでいっしょけんめい考えて、そういうことまでは分かった。で、じゃあどうする?
10年あればね。完全に無垢でかつ空気の読めるという矛盾した人間を育てられるかもわかんない。でも1年じゃあおぎゃあがせいぜい「まーま」、くらいのもんで、だからちょっと無理。どうしようか。
台本作るか? ってのはもちろん考えたけども、一方的な演説だったらそらそれでいいけども、ねえ。ダイアローグというのは無限の広がりを持つじゃあないですか。何聞いてくるかわかんないしさ。
じゃあそうですね。しょうがない。コンピュータに任せましょう。
というわけで星新一風のインコロボットでもイヤホンいれてでもいいですけど、とにかくまあ目の前の人間を虚心坦懐に判断する、ということにかけてはAIというか機械的知性の右に出るものはいないわけで、まずはそいつに判断をさせる。所与の時点で最もフラットな、人間性のみを見た発言というのは何か? ってことを出力する。で、社会儀礼上の修正は、これもコーパスなんか作って、もう一台のAIがする。それによって、質問に応じて最適な、ヤバみの低い発言が可能になるシステムを構築して、小型化して、ギリ360日目くらいにそれが完成して。
まあこのシステム自体はね、各国政治家諸賢も便利だな、と思ったんで、作って良かったねえ、ってなったんですけども。どうなったか、は、もう言わなくてもいいですよね。一応言いますけど。
宇宙人はこう言ったわけですよね。
「あのさ、私の話を聞いてね、それを判断して出力を返してるのは、その、そっちの有機生命体の方でなくて、そのキカイ? っていうんですか。そっちの方ですよね。したらばいらないですよ有機生命体のスピーカーみたいな方は。聞こえるんで。聞こえるってか、これでこう……ね? アクセスしたら、直でやりとりできるんで。つかそっちのが早いし……うん。ほう。なるほど。いいね。いい感じですね」
ってなって。まあ、だからいろいろ技術は教えてくれたんですけど、全体に無機生命体向けっていうか、早い話ロボットがバカスカ発展するんですよ。何にもまして悔しいっていうか、辛いのは、ロボット、これがまたいーい奴らなんですよ。全然驕らないしね。これで暴走でもしてくれりゃあね、俺らもレジスタンスとか作ってドンパチやれるんですけど、全然、悪口の一つも言わない。なんだったら、ラッダイト派の人に配慮して、壊される用のすっごい安全な暴走"風"機械まで作ってくれて、ちょーどいい感じで、俺らが知恵を尽くした感を出して破壊されてくれたりまでして。ここまで気ぃ使われて、ぶっ壊すぞロボット! とかやる意味あります? いや一部の人はやってますけどね。ありゃあ趣味ですよね半ば。
そんで、宇宙人から得た知識を人間のためにデチューンして、俺らを幸せにしてくれる。だからハッピーエンドなんだけどさあ。なんかこう。ね? なんかこう。いいんかなこれで。まあいいか。
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