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「ちょっと、みぃたん」


「なに…」



振り返ると、西村はふぅとため息を吐いた。



「もう、いい加減に諦めなよ」



「あきらめる?」



「いい年して、みっともないよ。元カレのセフレなんてさ」



西村君は、そう吐き捨てた。



「西村君には関係ないことでしょう」



冷静に言ったつもりだけれど、あたしの声は震えていた。



そんなあたしに、西村君はさらに追い討ちをかける。



「なんか、悲しくなるよ。みぃたん見てると」




それには答えず、「お疲れ様」と、あたしはバックルームを出て行った。



悲しくなるよ。

みぃたん見てると。



帰り道、西村君の言葉は、湿って生暖かい夜風とともに、あたしにまとわりついて、はなれなかった。

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