【後日談と、その最後の最後で明かされるよくあるどんでん返し】by???
「と、いう訳で後日談編だ。ここで残った疑問を解いたりするのがミステリーの通例だな」
事件から一日経った。天気は昨日までの嵐を感じさせないほどの快晴。探偵は城下町の郊外にある、魔王軍共同墓地の近くで佇んでいた。どうやら誰かを待っているようだ。相変わらずメタい事を口にしているが、その辺はスルーしておく。
「……あ。インプさ……げふんげふん、名探偵様」
「やぁ、暗殺者くん」
共同墓地の管理所から出てきたのは、容疑者であった暗殺者氏であった。探偵は彼を待っていたようだ。
「先日は、ありがとうございました」
「いや、礼は必要ない。ただ私は推理しただけだ」
暗殺者がお辞儀をすると、探偵は表情を変えずにそっけない返事を返した。推理しただけって言うが、コイツ割と黒幕っぽいポジションだったと思う。
「名探偵様も墓地に用があるんですか? あ、もしかして側近様のお墓に……?」
「馬鹿言え。今回の事件は茶番なのだから、全員を意地でも蘇らせるつもりだ。まだあいつの墓など必要ない」
「そ、そうでしたね」
名探偵の言う通り、今回の被害者は今回の大会が終われば、我を含めて全員元通りになるようだ。つまり殺人事件自体が無かった事になる。わりと様々なテンプレを嘗めている展開である。
「では、なんで墓地なんかに来たんですか?」
「お前と会いたかったからな。自室に帰ってなかったから、我もこちらに来てやったのだ」
「なぜ俺がここに来ると分かったんです? 俺、誰にも今日の予定を言ってないですけど」
「スケルトンの人間時代の遺品はほとんど、墓地に置いていたと耳にしてな。貴様が取りに来ると睨んでいたが……案の定のようだな」
「あぁ。なるほど、ご明察ですよ」
暗殺者の手には、大きめの袋。おそらく中に入っているのは、スケルトンが人間だったころに持っていた物品だ。アンデットは、一度墓地に埋められた死体を必要な時に掘り返されて使役されることが多い。おそらくスケルトンは復活した際、いらない物を墓地に埋めたままだったのだろう。
スケルトンの頼みでやってきたのか、暗殺者が自分の意思で貰いに来たのかは分からないが……ともかく兄弟である暗殺者なら回収することもできたわけだ。
「思い出の品があるかも知れませんからね。部屋に帰ったら、弟の代わりに中身を確認するつもりです」
「そうか」
「――ですが、まさかあいつがスケルトンになってただなんて。気づけなかったのが恥ずかしいです」
「まぁ、あれだけ変わっていれば気づかんだろう」
暗殺者は悲しそうな表情で遠くを見つめる。スケルトンの事件に様々な困惑をしているのだろう。探偵も、彼の言葉を落ち着いた物腰で聞いていた。
「一つの暗殺のために、あれだけの惨劇を繰り広げるとは。貴様の弟はとんでもないな」
「あいつは仕事のために情を捨てる事に関しては人一倍でしたから」
「貴様は違うのか?」
「前は同じような感じでしたけど、俺はもうインプ様一筋になってますんで。そもそもモノマネだけで食っていく方が、安泰です」
「そりゃ結構な事だ」
探偵は柔らかな声色。暗殺者の方はやや淡々とした悲しげな声色。それぞれはジョークを交えるような会話をしているが、心理的な状態はまるで正反対のように感じた。茶番パート特有の演技かもしれないが、我にはもはや区別がつかない。
「でも俺と違って、スケルトンは今の今まで感情を殺した暗殺者だったんですね。目的のために殺す必要のある奴を殺して、しかも罪を裏切り者である俺に擦り付けて逃げようとしてたなんて。悪ノリに染まった自分が恥ずかしいくらいですよ」
暗殺者はうつむき、今の心情を口にした。彼はモノマネをしていながらも、自分の立ち位置に悩んでいたのかもしれない。そしてこの事件が起こり、その思いが自身の中で明確になったのだろう。初めて思いを言葉にした彼の辛さは、はたしてどれほどのものであろう……。
すると探偵は、呆れた口調で言い返す。
「そうでもないだろう。スケルトンもきちんと感情は出していた」
豆鉄砲を食らったかのように、きょとんとする暗殺者。――そして探偵は、芝居がかった説明を彼に話始めた。
「いいか、奴は側近を殺した理由を『完璧主義に反するから』と言っていた。だがわらべ歌を完璧に沿わせるために下手な行為をする事を完璧とは思えない。そこには計画を完璧にしたと言い切れる、明確なメリットがあったのだろう」
「メリットですか……。でも、俺も思いつかないですね。あいつが側近を恨んでたとは聞いたことはないし、依頼主からもそんな依頼はされてないし」
暗殺者が卑屈な顔で答えると、探偵は彼を指さす。
「もっとシンプルでよくあるメリットだ。暗殺者、貴様を容疑者から外すためだ」
「俺を?」
兄である暗殺者を容疑者から外す。突然探偵から言い渡された回答に驚く暗殺者氏であったが、探偵は気にしないで推理をつづけた。
「貴様を開放するためには、貴様が囚われてる間に別の被害者を用意する必要があった。……しかしゾンビは事故死の可能性を疑われる殺害方法だったから、それだけではアリバイとして弱い。だから故意と分かりやすい方法で三人目を殺す必要があったのだ」
探偵は推理を言い切り、煙草を吸い始める。どうやら一通り言いたいことは話したようだ。
聞き手である暗殺者は、最初は話についていけてない様子であった。しかし少しずつ探偵の話を理解しかのように、笑みをこぼしていく。
「……はは。それは推理と言うより想像なんじゃないですか? 俺を慰めたいって意図を感じます」
「後日談編に残された謎なんて、大抵が証拠不十分の状態で終わるからそういう事になりやすいのさ。――だが逃げ切った真の黒幕がいるパターンよりは、なんかすっきりできるのではないかね?」
「どうでしょうね。俺の気持ちも証拠不十分ですから、そっちで想像してみてください」
「そうか。まぁ、殺人の推理なんかですっきりされても困るか」
暗殺者の困ったような笑顔で皮肉を言うと、名探偵もわずかに笑う。メタな発言は相変わらずだ。
スケルトンの気持ちなどもはや理解できない。そもそも茶番か本心かも区別がつかない物語なのだから、殺害の理由すら無かったのかもしれない。だがスケルトンの心情を話し合った二人は、この日で一番穏やかな表情を浮かべていた。
「……ありがとうございました。俺、これから弟と会ってこようと思います。犯人だったとはいえ、家族ですから」
暗殺者はまっすぐな瞳で探偵に今の気持ちを打ち明ける。探偵は「ほほう」と言葉を漏らした後、いつものエラそうな口調で暗殺者を送りだす。
「分かった。どうせ今回の事件も茶番になるからいくらでも会ってこい。なんなら次の大会でコラボでも検討したまえ」
「良いネタがあったら、ですけどね。じゃあこれで」
暗殺者は改めてお辞儀をすると、探偵を離れて街の方角へと歩いていった。きっとこれから、スケルトンと積もる話をするのであろう。場所が面会室なのか、もしくは茶番劇が終わった後の楽屋裏なのかはまだ分からない。
だがどちらにせよ、我は彼らのいざこざはすぐに晴れると思っている。この物語は昨日までの嵐が一日で青空になるミステリーなのだから、そのくらいのご都合転回は期待しないと損であろう。
……我が見続けた茶番劇は、これで終わりだ。いつもよりはそこそこ筋の通した物語であったが、しょせん物語だ。探偵も死も殺人も凶悪犯も、作り物として終演する。次の舞台では全てが無かった事になり、また違うシチュエーションの物語が始まるであろう。我もまた次回までになんの予兆もなく復活すると思う。
しかしだからと言って、何も得られない物語だったわけではない。きっとこれを機に、あの双子の兄弟はまた絆を結ぶだろう。新しいモノマネを思いつく者もいるだろう。もしかしたらこれを見てくれた誰かが、この奇怪なテンプレをパクって新たな物語を作るかもしれない。
良い事ばかりとは言えないが、この茶番から新たな物語につながる可能性を我は信じたい。この馬鹿げた日々が終わる日まで、ずっと。ずっと――。
だがそれとそれとして、クソ名探偵は自由過ぎたので後で殴っとこう。
この我、大サソリを怒らせた事を絶対後悔させてやるぞーー!
……え、何? 我は魔王じゃなかったのか、って?
うん、そうだよ。我、口調と殺害のタイミングが魔王と同じだけだよ。
まぁ嘘はついてないし、これくらいのミスリードよくある事だし良いよね。
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