二日目終了

「ここまでが二日目の証言モノマネです。ゾンビさんが死んで、より緊張感が高まりましたね」

「うむ。エルフも二日目の方が初めての時より緊張感が高くて良かったぞ」

 死への意識が軽すぎる二人は殺人現場となった倉庫で、一日目と同じ推理パート的な茶番を始めた。あと、クソ探偵インプはセリフだけで推奨年齢引き上げるのやめろ。


「さぁ、モノマネでは証言しきれなかった詳細をお聞きください。犯人が分からない程度にお教えいたします」

「ではお言葉に甘えて。ゾンビの死亡推定時刻はいつごろだ?」

「彼はモノマネ大会で出番が終わった直後に行方不明になっていたため、詳細な時刻は分かりません」

「そう言えばあいつ、死亡フラグモノマネしてそのまま直で帰ったんだったな。だが解剖で大体の時刻は分かるのではないか?」

「アンデッドの魔物だから無理です。同じアンデッドであるスケルトンさんに聞いたのですが、そういう魔物は腐敗した体なので正確な死亡時刻が割り出せないみたいでして」

「こんなところでファンタジー要素絡ませるとは、面倒な事件だな」

「独自性のシステムが無いと、新しいトリックを作るのが難しいんでしょうかね」

 二人はメタ的なやり取りを交えつつ、情報を交換する。推理小説っぽくなってきたが、もっとメタを無くしてほしい。


「で、誰か倉庫でゾンビを殺せた奴はいたのか?」

「魔王様の事件以降は、奴隷さんが倉庫近辺の廊下を見張っていました。しかし怪しい人どころか、そもそもゾンビさんも通ってないんだとか」

「大会には参加したもののすぐに消えて、通路を通らずに死体が見つかった……か」

 クソ探偵はふむぅ、と声を漏らす。

「警備していた奴隷くんが犯人と言う可能性は?」

「別の警備員も近くにいたので、離れるのは不可能です」

「近くに監視カメラはあったか?」

「ありません」

「無いのか。魔王の部屋の前にはあったではないか」

「監視カメラを無暗に増やすと、後々移動の制約が増えるので……。魔王様の部屋のカメラだけで我慢してください」

「ふむ。確かにミステリーと最新機器は犬猿の仲ではあるから、無暗に増やすと危険か」

 奴隷犯人説や、監視カメラの情報など様々な質問を交えるクソ探偵。しかし手ごたえは薄いようで、あまり良い情報はない。

 てか明らかにミステリーやる前提で監視カメラ設置してない? こいつら。



「……そうだ、忘れていた。件の魔王部屋監視カメラをまだ調べていなかったな」

 クソ探偵は、続いて最初の現場のカメラに興味を向けた。


「映像データなら、警察役の方からいただいています」

「ちょっと映像を早回しで見せろ」

「はい。では『都合よく一か所だけに設置された、限定的な位置の監視カメラ』映像をご覧ください」

「よし。都合よく犯人が使ったトリックを探そう」

 側近はすぐさま、どこからともなくディスプレイを取り出してクソ探偵に見せた。てか絶対ミステリーやる前提でカメラ設置してたな、こいつら。

 

「ここからが魔王様が入ったシーンで……ここが第一発見者である我々が入ったシーンです。どうです、暗殺者さんっぽい人の姿しかないでしょう」

「うむ。『暗殺者っぽい』と言ってる時点で暗殺者じゃないってオチは見え見えなのだが、その辺はお約束だから仕方ないな」


 側近はだいぶ早回しに最後まで映像を流した。確かに魔王が入った後は、発見者が来るまで暗殺者らしき人物しか入っていない。これは大分暗殺者に不利な証拠だ。クソ探偵がネタバレかましてきたが、聞かなかったことにして欲しい。

 ……で、見終わった探偵の表情はなにやら満足げな表情である。おそらく決定的な何かを見つけたのだろう。


「うむ。予想通り決定的な矛盾を見つけたぞ」

「? 怪しいシーンは映って無かったと思いますが」

「……大サソリが部屋に入った映像がないのだ。それと件の暗殺者らしき人物が部屋から出てきた映像も見当たらない」

「あれ。そうなんですか」

 

 側近が改めて映像を見ると確かにどこにも大サソリが入ったシーンは無いし、部屋に入ったはずの暗殺者が部屋から出たシーンもない。



「本当ですねー。大サソリさんがまったく映ってないですし、部屋に入った暗殺者さんらしき人も部屋から出ていない」

「よくある謎だな。適当によくあるトリックを使ったと考えて良いだろう。使った理由に関してはまだ分からんがな」

「でもなんで警察役の人はこの事を言わなかったんでしょう」

「ミステリーにおける警察は大抵馬鹿だからな。有能な警察が出そうとなると探偵の付け入る隙が無くなって話に制約が出来る」

「つまり後半の辻褄合わせが面倒になったんですね」

『だいたいそんな感じ』


 彼らはうきうきと子供でもやりそうなテンプレ批判を始める。そう言うのやめなさい。後々作者が似たネタ使いたくなった時に困るぞ。


「あ、そういえばロープの証言がありましたよね。扉を使わなかったなら、あれで行き来したんでしょうか?」

『窓はあるからな。シンプルに考えるとそうなる』

「あ。でも7メートルのロープだとちょっと長さが足りないかな?」

『犯人の身長分で届く分を排除したか、刃物で切られた箇所がそれなりの長さがあったか……だろうな。その長さでも十分証拠になる。』


 扉以外の脱出方法を考察した二人は、窓とロープの存在に行き当たった。裏庭との距離には少し足りないが、出入りの際に使うには十分かもしれない。

 しかし探偵は、『だがこれでは謎が残る』と言葉をつづけた。

「謎? どんな謎が残っているのですか?」

『まず侵入の際、魔王に気づかれず窓のベランダとロープを10メートル下から結ぶ方法が分からない。そしてロープを部屋に巻き上げたまま脱出するのはおかしいのだ』

「む。なるほど……」


 


『よっし、今日のまとめはこんなところでいいか』

 探偵は調査を締めくくる合図の鳴らすかのようにパン、と手をたたく。

「え、ゾンビさんの解剖記録とかはないんですか?」

「そこら辺は、明日届く予定だ。いっぺんに長い茶番やると、読者が飽きてくるしな」

「そうですかー。やっぱミステリーって、説明と飽きやすさのバランスがとりづらいから難しいですよねー」

「情報出すタイミングがずれるだけでトリックがバレバレになるからなぁ」

 二人はミステリーを考える時のつらみをつらつらと語りながら、帰り支度を始める。やはり、こいつらは明日まで解決する気はないようだ。


 だが明日になればきっとこのくだらない茶番も終わるのだろう。それだけは安心できる点だ。



『だが彼は知らなかった。この軽い考えこそが、最後の悲劇を予期していなかった証拠であると――!』

 インプ。そういう予告めいたセリフは登場人物がやるでない。

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