第六回細かすぎるけど多分伝わるWEB小説モノマネ大会殺人事件
事件発生
「きゃああああああっ! し、死体があああっ!?」
魔王城に悲鳴が響き渡る。
魔王専用に用意された寝室にいた我は、その声を聞いて目を覚ました。「第六回細かすぎるけど多分伝わるWEB小説モノマネ大会」が始まる数十分前の出来事だ。
ドアの近くに目をやると血の気の引いた側近とワーウルフの姿。つい先ほど部屋へと入ってきたようだ。いったい何があったのだと疑問を浮かべた我だったが――すぐさまとんでもない状況であると気づいた。
なんと我の足元が、黒ずんだ血で染まっている。人や魔物が怪我した程度では流れないほど多量の血。この血はどうやら、我の立っていた背後から流れていたようだ。
我の頭の中で嫌な考えがいくつも巡る。もしやこれは。我の背後で何か悲惨な事が起こっているのか。
背後の状況を確認せねば。この部屋にいた者としての義務感か、生命体としての好奇心か、もしくは別の何かが、我の心に語り掛けている。我は見たくない恐怖心を必死に押さえつけ、ゆっくりと後ろを振り向いた。
それは考えられる最悪の光景。我の背後にいたのは二人の倒れた魔物。二人とも胸を貫かれており、すでに死んでいるのが分かった。
そしてその死んでいる魔物の一人が問題だった。――我が絶望に身を震わすより早く、目撃者の側近とワーウルフは死んだ彼らの名を叫んだ。
「お、大サソリさんと魔王様が……死んでる!?」
「誰か、警察を呼んでっ! 早く!」
――そう。我は別の参加者と共に殺されて幽霊になっていたのだ。
どこから突っ込めばいいんだ、と我は頭を抱え絶望した。
=======
――我が殺された事件現場に、何人もの警察っぽい服を着た参加者が出入りする。幽霊になった我は、その様子を大人しく見ていた。
「――被害者は魔王氏と大サソリ氏の二名。同一のナイフで刺されたものと考えられます」
「医師の簡易検分によると、二人とも昨晩の消灯時間後に殺されたようだな。凶器がこのナイフなのは間違いないのか?」
「今のところはそれしか考えられないですね、勇者警部。そもそもこの寝室、魔王の黒歴史ノートぐらいしかめぼしい物はありませんでしたし」
「なるほど」
「勇者警部。指紋の検査は終わりました。ですが魔王以外は古い指紋で、犯人らしき指紋は見つかりません。手袋か何かを使ったのかもしれません」
「ご苦労、奴隷検査官くん。犯人が指紋に気を使っていたということは、計画的な殺人という訳か。……姫刑事、証言の方はどうだ?」
「はい、ミミック捜査官と共に魔王城に宿泊していた人物から昨日の状況を一通り聞き取りました。その中で怪しい行動をした者が一名いたため、その人物について調べを進めています」
「よし。引き続き捜査を進めろ」
どう考えても警察じゃない奴らが、我に見せつけるようにわざとらしく捜査パートを繰り広げている。間違いない、これは
だが、なぜ魔物がモノマネするだけのギャグノベルでそんな謎解き役みたいな地の文をやらなきゃならないのだ。そもそもなんで我が被害者なのだ。我、立場的にはけっこう偉いのだぞ……?
「……どうしましょう、ゲストの名探偵さん。レギュラーの魔王様が死んでるなんて、前代未聞です。本当は適当な盗難事件程度にする予定だったのに……」
『グガハハハ。魔王らしいっちゃあ魔王らしい展開だな』
「これでは、今日のモノマネ大会ミステリー編は中止にした方がよろしいでしょうか?」
『グガハハハ。側近くん、頭を柔らかくしたまえ。ここは発想を変えるのだ』
部屋の隅を見てみると、目撃者の側近がいつの間にかやって来た自称名探偵(どう見てもインプ)と話を始めている。あの小悪魔、参加者全員を洗脳した時期からフリーダム化が止まらんな。
『普通のモノマネ大会ができないならいつも通り普通じゃないモノマネ大会にすればいい。そう、今回のモノマネ大会はWEBノベル作家とかがやりそうなありがちミステリーの証言者モノマネをさせて、証言を集めるのだ!』
「な、なるほど! WEBノベルも最近は安っぽいミステリーが増えてますもんね。確かにそうすれば、警察に事件の情報を提供できるかもしれません」
『しかもチープなモノマネ大会だと言う名分を利用すれば、この殺人事件のトリックがいかにチープでも許される! モノマネ大会に真剣なトリックを期待するのは馬鹿馬鹿しいからなっ!』
「さすが偉大なるイン……げふんげふん、名探偵さん。ストーリーの気楽さを維持する事も考えてますね!」
『グガハハハ。まぁ、前回辺りからこういう流れにしようとは思っていたのだがな』
我の予想通り、探偵は今回の殺人事件をテーマの中心に据えて大会を進行させたいようだ。
確かに前回の最後らへんで「魔王の過激な展開」とか「魔王が殺される」とか言ってた気もするが……だからって我をこういう事件に巻き込む展開は予想しとらんぞ。
「まぁまぁ、地の文と言う目立つポジションが得れたんですから良いじゃないですか。それに次回の大会までには復活できるので大丈夫ですよ。なんせこれはコメディですし」
『ミステリーやりたいってだけでキャラを捨てるのは惜しいしな。とりあえず我が輩が事件を解決したら生き返らしてやるから大人しく見ておれ』
……いや、我の地の文と会話できている時点でミステリーとして破綻しているし、そもそも死や生を茶番にしちゃったら事件として機能しないだろ。そりゃ我だって死にたくはないけど、もっと緊張感と言う物は持つべきだぞ!
=====
「まぁ、皆さんいつも通りツッコみたい箇所は多いでしょうが。とりあえずモノマネを始めます。……ちなみにモノマネとはいえほとんどは通常の証言みたいな形式です。これらも殺人事件の証拠になりますので、暇な人は証言を元に真犯人を探してみてはいかがでしょう。ただし設定やら世界観やらが常時ふざけてますし細かい矛盾とか情報不足とかも深く考えず進めるので、馬鹿な展開でもぶちぎれないでくださいね」
『いちおう推理できるように茶番パートもいつもよりちょっと長めにやるが……まぁ、面倒だったら読み飛ばしてくれ。このコントを律儀に読んだせいで後半読みたくなくなる、なんてのは嫌だしな!』
……と、長ったらしい説明を行い彼らはモノマネ大会を始めるのであった。なんで茶番パートにそれほど人気が無いのを知ってるのに、こんな茶番メインみたいな特別構成にしてんだろうこいつら。
とりあえず探偵だけでも生き返ったらぶん殴っておきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます