幸いオールクリア後のセーブデータが残っていたので、どのルートも途中からやることができた。どうしようか考えたあと、おれは故人を悼み、藤波沙希ルートをはじめからやることにした。

 藤波沙希は、中学時代に親友の裏切りで執拗ないじめにあい、故郷を離れて、主人公のいる高校へやってきた。そのため整った顔立ちとは裏腹に、どこか不安げで陰のある女の子だった。

 高校ではもう一度友だちがほしいと、勇気を振り絞って図書委員に入ったのだが、他の委員とうまくなじめず、クラスでもリーダー的女子から目の敵にされ、孤立してしまう。

 主人公は、図書委員たちが沙希の陰口をたたいているのを偶然耳にし、それをきっかけに沙希のことを遠巻きに気にかけるようになる。

 主人公は写真部に所属し、高一の夏に『高校生虹の写真コンクール』に応募した写真が入選した。

 写真は学校の廊下にも貼り出され、ある日沙希がその写真を立ち止まって見ているところに、主人公が通りがかる。

 ここで四つの選択肢が現れ、その中から一つを選ぶ。

 ここでは「写真好きなの?」と、話かけるのが正しい。

「え……あ、素敵な写真だと思って」

「きっと撮ったやつが素敵なんだろうな」

 主人公は素知らぬ顔をする。

 沙希が撮影者の名前を見る。

「これっ、あなたが撮ったの?」

「うん、そう」主人公が微笑む。

 なんだ、このイケメントークは?

 やりながらそう思うわけだが、それはともかく、この日を境に二人は仲良くなる。

 そしてあるとき、主人公が沙希に「藤波も写真部に入らないか?」と誘う。

「私なんかが入ってもいいの?」沙希が問い返す。

 ここで三つのセリフの中から一つを選ぶ。

「君と一緒に虹の写真が撮りたいんだ」

 この恥ずかしいキザなセリフが正解で、これにより沙希が写真部に入る。

 写真部には翔太という主人公の親友がいて、沙希の入部後、翔太が沙希のことを好きになる。

 高校三年になり、主人公、沙希、翔太の三人は『虹の写真コンクール』へ出す写真を撮るため、毎日虹が出るのを待つ。

 コンクールの締切が目前に迫るが、肝心の虹が出ない。

 締切まで残り二日。午前中で授業が終わった日の午後、にわか雨のあと、部室の窓から見上げた丘の向こう、ついに虹が架かる。

「願い、叶ったね」

 沙希の瞳が潤む。

 三人はカメラを持って校舎を飛び出し、様々な想いを胸にシャッターを切る――。

 もう少しでクライマックスというところだったが、健さんとの約束の時間が迫っていた。おれはデータをセーブし、『WATABE』へと向かった。

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