第28話 知らなかった 1

 休日を利用して、久しぶりに実家へ顔を出した。そこそこ近い距離に実家があるせいで、いつでも行けると、つい日が経ってしまう。涼太とはよく顔を合わせているのもあって、実家へ顔を出すのが疎かになっていた。

 久しぶりに会う両親のために手土産のケーキ片手に訪ねると、お母さんはホクホクとした笑顔で迎えてくれた。ケーキを貰って、とても嬉しそうにしている。

 私もタイちゃんからカップケーキモドキを貰った時には、こんな顔をしているのだろう。

「お父さんは?」

 休日なのに、父の姿がリビングになかった。普段なら新聞を広げてソファで寛いでいるはずなのに、いつも座っている定位置には読み終わったように雑に畳まれた新聞のみが置かれていた。

「ホームセンターよ」

「ホームセンター?」

 父がホームセンターへ行く用事が何一つ浮ばない。父が出かけるといえば、母の買い物に無理やり付き合わされるか。近所の付き合いで将棋をさしに、将棋会館へ出かけるくらいだろう。あとは、散歩だ。

 私の疑問を感じ取り、母が付け足した。

「お父さんね、最近、手作りにはまってるのよ。なんていうの。ほら、DHCだっけ?」

 DHC? それ健康食品関係の会社じゃない? もしかして、DIYか?

 お母さん、Dしかあってないから。突っ込むのも面倒なのでスルー。

「で。お父さんは、いったい何を作ってんの?」

「なんだか、書棚を作るとか言って」

「書棚?」

 何でまた、書棚。新聞しか読まないのに、書棚を作ってもおさめるほどの本も無いでしょうが。うまく出来上がったとしても、お母さんの細々とした物を置かれてお終いになりそう。

 だってお母さんてば、郵便局で貰ったポスト形の貯金箱や、コンビニで商品を買うとついてくるシールを集めて貰った小物とか。その辺の銀行から度々貰ってくるボールペンの束やキャラクターグッズなど、もう数え上げたらキリがないような色々な物を貰って帰ってきては、置くところがないのよね。なんていって、私や涼太の部屋に置いていってしまうんだ。実家から出た今も、きっと私と涼太の部屋には、そういったわけのわからない、いつ使うかもしれないものたちが、あらゆるところに置かれているはず。あとで確認してこなくちゃ。

 そもそも、その作った書棚をどこへ置こうとしているのだろう。うちのリビングは、そんなに広くないよ。できあがったあとのことを、想像すればするほど辟易としてくる。

「そんなの作っても、意味ないんじゃないの?」

「いいのよ。何か作りたいと思いついたのが書棚だったんでしょ。好きにさせてあげて」

 お茶の準備をしながら、お母さんは笑いながら話す。

 相変わらず、お父さんに甘い。

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