第39話「奇跡なのですか?」

――プルルル……


 いつも通り、ヘルプデスクにコールが鳴り響きます。


 それをとるのは、気合の入った圭子です。


(今度こそ、オチをつけないと!)


 余計な気合が入っています。


「はい、ヘルプデスクです」


〈あ。私、サポート契約をしている藤本でーす〉


 陽気な若い男性の声です。


「お疲れ様です。ご用件はなんでしょうか?」


〈ああ。実は相談に乗って欲しいことがありましてね。そちらって魔王とかいるから、魔術とか呪術関係も詳しいんですよね?〉


「……はい?」


 圭子は頭を捻ります。


〈そこの部長さん、異世界の魔王で、この世界に転生してきたんでしょう?〉


「……あっ」


 そこで初めて、圭子は皆籐が「魔王」と呼ばれていたことを思いだします。


 しかし、異世界から転生したなどは初耳です。


〈やっぱり! 私ね、この前、読んだんですよ。【オレ、ヘルプデスクやっている元魔王だけど、何か聞きたいことある?】っていうラノベ。魔王の苦労話とか出てきて、読めば読むほど、うちのヘルプデスクのことに違いないと確信するようになったんですよね〉


「……確信するほど、そのラノベと似ている点というのも気になりますが、ひとまず違いますよ。うちの部長は魔王ではありません」


 その圭子の言葉に、皆籐がピクリと反応します。


〈またまたー。まあ、わかってるんですよ。魔術とか呪術とか、胡散臭いと思われちゃいますものね。だから、隠したくなる。うんうん。わかる、わかる。同志、同志〉


「いや、あの……」


〈でね、ちょっと相談にのって欲しいことってね、先日購入した健康祈願のブレスレットなんだけど、どうも偽物じゃないかって気がするんだ。私もねー、けっこうこの手は詳しいんですよ。なにしろ、開運の壺とか、金運アップの財布とか、絶対に異性からモテるペンダントとか、もういろいろ買っているからね。でもでもね、その経験からね、今回の健康祈願のブレスレットは胡散臭いと思いましてね!〉


「……それ、すべて胡散臭くありませんか?」


〈なーに、言っちゃってんですか。ちゃんと効果ありましたよ!〉


「効果? ……では、開運の壺はどんな効果が?」


〈私ね、子供の頃から運が悪かったんですよね。20歳の時にやった占いでは、23才で死ぬといたわれた。でも、25才で未だに無事に生きている。その占い師から買った開運の壺のおかげに決まっていますよね〉


「……それ、23才の死因の信憑性はどこにあるんですか?」


〈ついでに言うとね、金運アップの財布はすごいですよ。これを買ってからね、メーカーから手厚いサポートで、いろいろな商品を紹介してくれてね。どれもいい商品で購入したんですけどね、一緒にそれをすべて経費扱いにする方法を教えてくれたんですよ。そしたらなんと、税金がすごく減ってね。もう、超お得! まさに金運アップですよ!〉


「……それ、サポートではなくセールスですよね。収支計算していますか?」


〈あとね、異性からモテるペンダント。これもね、すごかった〉


 典型的に話を聞かないタイプのようです。


〈ペンダントを人から見えるようにしなくてはいけないので、真冬でも我慢して胸元を大きく開いて歩いてみたんだけど、いや~もう女性の熱い視線が集まる集まる!〉


「……それ、男の視線も集めていますよね」


 もちろん、「寒い中、変な人」という視線でしょう。


〈男は、きっと嫉妬で見てたんだね〉


「では、実際に女性から声をかけられましたか?」


〈それはないよ。だって、私の好みって、お淑やかで恥ずかしがり屋だからね。私に惚れるのも、みんなそのタイプのはず。だから、照れて話しかけてこられないんだよね!〉


「よく言えば、ポジティブシンキングですね……」


 悪く言えば、バカでしょう。


〈でもね、今回の健康祈願のブレスレットはおかしい! 1ヶ月も経つのに、効果が現れないんですよね!〉


 ふと、圭子に悪い予感が走ります。


「効果……とは?」


〈最近、よく風邪をひくんだけど、それがなかなか止らなくてね〉


「風邪? どんな症状ですか?」


〈まあ、咳とかでないけど熱がね。けっこう高熱で38度とか、でる時は40度ぐらいかな。まあ、汗かけば下がるんだけど、妙に頻繁でねぇ〉


「他に症状は?」


 圭子の声がかわいらしいものから、少し凜としたものに変わっていきます。


〈な、なんだよ。医者みたいな聞き方だね……〉


「ヘルプデスクですから……」


〈ん? あ、そうか? ヘルプデスクはそうなのか? ……まあ、いいや。ちょっと右の脇腹のあたりがいたいかなぁ。でも、これはぶつけたのかもしれないね。押すと痛いし。あと、ちょっと前に便に血がついてたぐらいかな?〉


「医者には行かれたんですか?」


「行かないよ。医者なんて使用できないし、嫌いだしね。医者より、パワーストーンのが効果あるしね」


「…………」


 圭子の頭の中で情報が整理されていきます。


(右、脇腹……肋骨下? 高熱と血便……。異性からモテるペンダント……同性愛ではない。性行為経験はなさそう……)


〈おーい、どうかした?〉


「もしかして、ここ1年以内に海外旅行しませんでしたか?」


〈ん? ……ああ、したね。パワースポット見学でブラジルでイグアスの滝とか……。なんでわかったの?〉


「そこで生水とか飲みましたか?」


〈え? ……ああ。飲んだね。一度だけ、どうしても喉が渇いちゃって。またまた、よくわかったね~。やっぱりヘルプデスクの人って異能力者なの?〉


「もしかして……赤痢アメーバー……」


〈え? ……なんかのモンスター?〉


「すぐに医者に行ってください! 問診だけではわかりませんが、最悪の場合、悪化するとよくありません!」


〈な、なんだよ、いきなり。やだね、医者なんて。医学なんか頼るより、パワーストーンの方が……〉


「医学をバカにしないでください! 多くの経験と犠牲の上に、研究して溜められた知識は、根拠のないパワーストーンなんかよりもよっぽど頼れます!」


 とうとう、圭子はキレてしまいます。


 彼女にしては、珍しい怒声です。


〈なんだよ、生意気だな! 偉そうになに言ってんだ! 私が聞きたいことは、そんなことじゃないよ! もういいから、ちょっと上司だせよ!〉


「じょ、上司……ですか……」


 横目で圭子が見ると、いつの間にかヘッドセットを耳につけてモニターしていた皆籐が、こくりと頷きます。


 圭子は電話を保留にすると、皆籐に「すいません」と謝る。


 落ちついて考えれば、もっと言いようがあったと圭子は深く反省してしまいます。


「それよりも、どの病院に行かせればいいですか?」


 ですが、皆籐はいつもの無表情で気にとめず聞いてきました。


「……あ、はい。じゃあ、凸凹大学病院の木崎先生にセブンブリッジで……」


「わかりました。一応、モニターしていてください」


 皆籐は、すっと受話器をあげました。


 そして、いつもより少し野太い声をだします。


「……我が魔王だ」


 とうとう、自己宣言してしまいました。


〈――! あ、あなたが魔王か!〉


「いかにも。貴様か、我が配下の伝えし神託を聞かぬ者は」


〈し、神託!? いや、だって医学がどうのって……〉


「愚か者め。わからぬのか。それはカモフラージュ。……本来は秘密だが、まあ仕方ない。貴様に、真実を教えよう。先の者は、我が支配下においた神託の巫女。貴様が医者に行かねばならないのは、神のお告げだ。しかし、それを言うことができぬために、あのような言い方になったのだ」


〈なっ、なんと……。では、言い当てたのは、やはり奇跡の力……〉


「そうだ。良いか、貴様。今よりすぐ、凸凹大学病院の木崎という医者に会い、秘密の呪文を伝えるのだ」


〈じゅ、呪文! そ、それは!?〉


「……セブンブリッジ」


〈セブンブリッジ! なんかカッコイイ! わかりました! 今から行って奇跡体験アンビリーバボーしてきます!」


 最後は興奮気味に、相手は電話を切りました。


 皆籐が立ちあがり、圭子の側までやってきます。


「とりあえず、行かせることに成功しましたね。単純で助かりました」


「すいません……」


 圭子は落ちこんでいました。


 しかし、圭子にも許せないことがあります。


「でも、医学は奇跡じゃありません……」


 最後まで医学を「奇跡体験」と言っていたことが、どうしても認められません。


「まあ、確かに医学自体は奇跡ではないでしょう。しかし、彼はもう奇跡体験はしているのですよ」


「……え?」


「あなたという奇跡の存在に出会えたことが奇跡。そして、それにより医者嫌いなのに、医者へ行く事になったのも奇跡的ではないですか。その後、医学により治療してもらい、きっと彼も医学と奇跡の違いを知ることでしょう」


「……全ちゃん……」


 瞳に思わずウルッと涙を溜めた圭子は立ちあがります。


 そして、ゆっくりと静かに皆籐の体に――


――どんっ!


「くほっ!」


――抱きついたはずでした。


 しかし、その瞬間になんかいろいろ変な異音が混ざっています。


 そして、自分が抱きついている相手の体が、皆籐にしては小さく柔らかいことに気がつきます。


「……あれ? 夢子さん?」


 圭子が抱きついていたのは、夢子でした。


 皆籐は、夢子に弾きとばされたらしく、床に無様に転がっていました。


「だめよ、圭子ちゃん。魔王に抱きついたら妊娠しちゃう」


 夢子、目がマジです。


「……ちょ、ちょっと花氏さん……」


 ひっくり返りながら、皆籐がクレームを入れます。


「今、ものすごく良いシーンだったんですよ。感動の場面です。私にとって、あるかないかの奇跡の見せ場……」


「魔王退治は、主人公の役目なので」


「…………」


 皆籐は無表情のまま涙を流し、圭子は思わず顔をほころばすのでした。



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■用語説明

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●【オレ、ヘルプデスクやっている元魔王だけど、何か聞きたいことある?】

 どこから出版しているのか知りたいところです。


●開運の壺

 白磁の壺らしく、作った職人さんが「これはいいものだー!」と叫んでいたそうです。


●絶対に異性からモテるペンダント

 異性なら何でもありなので、異性の犬猫に好かれても効果有りとみなされます。


●金運アップの財布

 全部金色で「百式」と呼ばれる財布です。


●赤痢アメーバー

 スライムタイプのモンスターで、物理攻撃が聞きにくいやっかいな敵です。

 火属性の耐性があるため、氷属性で攻撃しましょう。

 もちろん、嘘です。


●「問診だけではわかりませんが、最悪の場合」

 圭子が心配しているのは、肝膿瘍かんのうようという病気のようです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%9D%E8%86%BF%E7%98%8D


●凸凹大学病院

 でこぼ~こ大学校~♪ はじま~るよ~~♪

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%B3%A2%E4%BC%B8%E4%BB%8B%E3%81%AE%E5%87%B8%E5%87%B9%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%A0%A1

 好きでした……。


●「我が魔王だ」

 確定しました。


●「奇跡体験アンビリーバボー」

 奇跡的に同じ名前の番組があるかもしれませんが、偶然です。




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