第27話「占いを信じてるのですか?」
「はい。ヘルプデスクです」
今日も元気に、夢子は電話を取ります。
「お疲れ様です。営業二課の館林です」
「お疲れ様です」
夢子は少し安心します。
なぜなら、相手は爽やかな男性の声で、すごく普通にスタートしたからです。
きっと普通の質問でしょう。
「…………」
「…………」
しかし、その後が、なぜか無言です。
「あのぉ。何に関するご質問でしょうか?」
「あ、いや。質問というかですね……質問はないんですけど……」
「切っていいですか?」
「あっ! 待って!」
普通の質問どころか、質問がないようです。
ならばどうして電話をしてきたのでしょうか。
夢子の悪い予感メーターがレッドゾーンです。
「実は今朝、『目覚ましアラームテレビ』を見ていたんです」
有名な朝のニュース番組です。
「それの星占いコーナーで、なんと、私のおとめ座の運勢が最悪だったのです! 周りの信頼度がガタ落ちして、友達を失って、人生を台無しにするでしょうって!」
「……はあ。随分と末期な感じですね……」
「ひどいですよね! そして、これを救えるのは、ラッキーパーソンだけ。そしておとめ座のラッキーパーソンが、『ヘルプデスクの女性』だった……というわけなのです」
「なんでいつも、そんな微妙なもの指定するんだ、【ムーンプリズムパワー・ヒミコ】……」
【ムーンプリズムパワー・ヒミコ】は、番組の占いコーナーの担当占い師です。
ラッキーアイテムや、ラッキーパーソンで、微妙なものを指定することで有名です。
「星座のまたたき数えて、占う恋のゆくえで電話したら、あなたががでた。これって運命かな……なんて」
「なに言ってるんですか、あなたは。こっちの思考回路は、ショート寸前ですよ……」
「だって純情どうしよう……」
「月の光に導かれたりはしていませんよ」
「いや。ミラクルロマンスって気がしませんか!?」
「いい加減にしないと、月に変わってお仕置きしますよ……」
「ノリノリじゃないですか!」
「――はっ! しまった、つい……」
こういう悪乗り、実は嫌いではありません。
夢子は、咳払いで仕切り直しです。
「ごほんっ。……ともかくですね。占いなんて言うものは、信じるに値しません。我が社のFAQにも『朝からテレビの占いを真に受けて仕事を休んだりしないように』という注意書きがあります」
「しかし、気になるものは気になるじゃないですか! ……でも、まあ、こうやっておしゃべりできたから、ラッキーパーソンはこれでクリアですね。あとは、ラッキーアイテムを手に入れるだけです!」
「……ちなみに、ラッキーアイテムはなんなんですか?」
「女子中学生の使用済みハンカチです」
「……それ、どうやって手に入れるつもりですか?」
「もちろん、これから街で声をかけて、譲ってもらおうかと思ってます!」
「……それ、占い大当たりコースですよね?」
まさに「周りの信頼度がガタ落ちして、友達を失って、人生を台無し」一直線です。
「ともかく、占いなんて『当たるも八卦、当たらぬも八卦』なんです。そんな非科学的なものは、気にせずに過ごしてください。はい、クローズです」
――ガシャン!
半ば強引に切りましたが、今は皆藤をはじめ、他のメンバーもいませんから安心です。
「おはようございまーす、夢子さん」
そこに明るく元気な圭子の声が、ヘルプデスクに届きます。
「おはよう、圭子ちゃん。ちょうどよかった」
夢子は、急いで圭子に歩み寄ります。
「どうかしたんですか?」
「圭子ちゃん、ハンカチ持ってる?」
「もちろんありますよ」
「ごめん。ちょっと見せて」
「?? ……はい、どうぞ。でも、使っていますから」
「だから、いいの! ちょっと貸しておいて! はい、圭子ちゃんにはこっちの未使用のハンカチあげるから」
「え? ……なんなんですか?」
「実は、私の人生が台無しになるかどうかがかかっているの! 圭子ちゃんなら、W役満だから完璧OKなの!」
「……はあ……?」
実は夢子、おとめ座でした。
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■用語説明
●『目覚ましアラームテレビ』
めざ○し君って、ゆるきゃらに分類されるのでしょうか?
●星占いコーナー
現在天文学で13星座占いというのがでましたが、はやりませんでしたね。
へびつかい座、デビュー失敗というところでしょうか。
●「ラッキーパーソン」
ラッキーパーソンばかり気にする人を「ラッキーパーソン病」と言います。
●【ムーンプリズムパワー・ヒミコ】
元ネタは「ムーン○リンセス卑弥呼」さんです。
あの占いのラッキーアイテム等を見ていると、ネタだしに対する苦労がうかがえます。
●「星座のまたたき数えて、占う恋のゆくえ」「思考回路は、ショート寸前」他
「ムーン○イト伝説」を知らない人はググりましょう。
ここ、テストにでます。
●「女子中学生の使用済みハンカチ」
下着にしようかと思ったけど、理性が邪魔をしました。
●『当たるも八卦、当たらぬも八卦』
占い師が、占いが外れた時に言う言葉です。
どうせ負け惜しみならば、「当たるも八卦、当たらぬも遠からず」(当たれば、さすが占い。当たらなかったとしても、きっと惜しい結果だったはず)と言えばいいと思います。
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