第18話「これもジェネレーションギャップ問題ですか?」

「では、問題です。『チャンネルを回す』とは、どういう意味でしょうか?」


 皆籐の問いに、腕を組みながら圭子が首を傾げます。


 眉間に寄っているシワさえも、このぐらいの年だとかわいいものです。


「チャンネルを変えるのではなく『回す』というのがポイントですよね……。やはり、順繰りに変えていくということですか?」


「うん。結果的には、正解かな。昔はチャンネルは押すものではなく、回すものだったんだ。ちなみに電話のダイヤルも回すものだったんだよ」


 圭子の頭の上にたくさんの「?」が浮きます。


 実は、前回のジェネレーションギャップネタがまだ続いていました。


 話はパソコンから離れて、生活のいろいろなネタにおよんでいます。


「じゃあ、わたくしからも出しますわ」


 やっと面倒な問い合わせが終わった悠が参加です。


「電車に乗る時に『切符を切る』とは、どういう意味でしょうか?」


「あ、それはわかりますよ! 切符は昔、切って目印をつけていたらしいですから、電車もものすごく大昔・・・・・・・は、切符を切っていたんじゃないでしょうか!」


「――ぐはっ!(吐血)」


 切符を切ってもらった経験のある悠が、大ダメージを喰らいます。


「もう許してあげて。上空さんのHPは0よ」


 抑揚なく皆籐が言葉を添えますが、本当に0になったのか悠は机にひれ伏してしまいます。


「では、今度は私から」


 夢子も、もちろん参戦しています。


「今から言うお店が、街に本当にあるお店かどうか答えてください。……八百屋さん」


「あります!」


「布団屋さん」


「……あ、あります?」


「傘屋さん」


「ありません!」


「ブブー! ありまーす」


「ええーっ! 見たことないですよ! そんな傘だけ売ってるんですか!? 雨が降らない日は、仕事にならないじゃないですか! それに雨が降ったら、みんなコンビニでビニール傘をかったりしちゃいますよ?」


「その昔、コンビニなどありませんでした……」


「……え。コンビニがない世界なんて……考えられません……」


 愕然とする圭子の横で、皆籐が「絶対に年齢のさばを読んでいる」と夢子を見つめます。


「リベンジよ!」


 復活の悠です。


「ポケベルってなんでしょう!」


「……ポケットベルですよね? 名前から携帯用のベルだから、不審者に声をかけられた時の警報器とか?」


「――ぐはっ!(吐血)」


「いや、というか、上空さん。それ、ダメージ受けるために質問してませんか?」


 皆籐のツッコミに、悠はひれ伏したまま無反応です。


 彼女は何がやりたいのかよくわかりません。


「うう……なんか悔しいです。皆さんからばかり問題出してくるし、私は答えられないし……」


 圭子が少し頬を膨らませます。


「こうなったら、私からもジェネレーションギャップ問題をださせてください!」


 もちろん、みんな受けて立ちます。


 みんな若いつもりなので、最近の中学生ネタでも、ついていく自信があるのでしょう。


「では、問題です! その昔、頭部穿孔トレパネーションという治療方法が流行ったことがあるのですが、いつ頃に、どの地域で流行ったでしょうか?」


「…………」「…………」「…………」


 中学生ネタを待っていたみんなは、当然反応できません。


「みなさん、わかりませんね。うふふ★ ……答えは、中世ヨーロッパです!」


「古すぎるわ!」


 思わず夢子がツッコミます。


「え? でも、ジェネレーションギャップですし……」


「圭子ちゃんのジェネレーションじゃないでしょ!」


「ああ。なるほど! ……それなら、次の問題です。乳がんの手術で昔は、すぐにハルステッド手術をするのが主流だったのですが、最近は縮小――」


「マニアックすぎるから!」


「うにゅっ……。ジェネレーションギャップって、難しいんですね……」


 難しいのはそこではないのですが、どうにも理解できない圭子でした。




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■用語説明

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●『チャンネルを回す』

 昔、サザエさん家の居間にあるテレビのチャンネルが「回す」タイプから変わっていた時のショックったらありませんでした。

 昭和のよき時代のままいてくれと信じていたのに残念です。

 三河屋さんの三平さんが実家に帰って三郎さんに変わるとか、なんで部分的に時間が流れるのでしょうか。

 天下御免のご都合主義ですね。


●「電話のダイヤルも回すもの」

 まだ黒電話が残っているところもあるぐらいなので、もう少しこの言いまわしは残るのかも知れません。

 でも、そのうち電話の「ダイヤル(=回転式のつまみ)する」という言葉も失われるのでしょうか。


●『切符を切る』

 改札の中で、パンチを回しながらカチカチカチとリズムをとっていた駅員さんという名物はもう見られない、失われた文化となりましたね。

 都内の混雑する駅で切符を切る駅員さんの速度たるや、無形文化財に指定しても良かったのではないかと思います。


●布団屋さん

 これも最近はあまり見なくなってきました。

 町の電気屋さん、そしてゲームセンターも昔と違いなくなってきましたね。


●傘屋さん

 昔は商店街に1軒ぐらいは、傘専門店があったものですが、最近はほぼなくなりました。

 まだ生きているお店はあるのでしょうか……。


●「コンビニがない世界なんて」

 クリープを入れないコーヒーなんて。


●ポケベル

 ガラケーというのも、そのうち失われるのかも知れません。

 でも、ガラケーという言葉自体、ちゃんと意味をわかって使っている人は少ない気がしますね。


●頭部穿孔

 頭蓋骨に穴を開けて悪いものを出しちゃおうという、民間療法です。

 まあ、ぶっちゃけ、やっちゃダメ系です。


●ハルステッド手術

 胸が小さくなってしまうので、やるしかないんだけど、やるのにはかなり覚悟が必要な手術のようです。

 詳しくはググってください。


●「マニアックすぎるから!」

 前回の自分のことは棚の上ですね。

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