第15話「希望を求めるのですか?」
「はい、ヘルプデスクです」
夢子は久々に電話をとった気がしましたが、それはきっと気のせいでしょう。
いつもどおり、明るい声で応じます。
「どうしましたか?」
〈……夢も希望もなくなりました……〉
しかし、聞こえてきたのは、重苦しい絶望感たっぷりの沈鬱な声でした。
思わず夢子は、横で研修のためにモニター中の圭子と顔を見合わせます。
「失せもの探しでしたら、警察へ……」
〈警察で夢や希望をさがしてくれるんですか!?〉
「そこに希望を見いだしてみるとか……」
〈希望を探す希望……それ、口に出すとかっこいいですけど、確率的にはすごく低いですよね〉
「そうは言われましても……。いったい、なにがあったのですか?」
聞きたくはなかった夢子ですが、聞かないと話が進みそうにありません。
〈私ね、もう死ぬんですよ〉
「ほほう」
〈医者に余命一年だろうと宣告されました〉
「ほほう」
〈ガンなんですよ、ガン〉
「ほほう」
〈……話、まじめに聞いていますか!?〉
「……ちょっと、ヘルプデスクでまじめに聞くには重すぎる話題で困っています」
こればかりは、夢子の言うとおりです。
〈困っているのは、こっちなんですよ!〉
「そう言われましても。ここは病院ではなく、ヘルプデスクですから……」
〈でも、聞きましたよ! そのヘルプデスクで解決できない問題はないって! どんな問題でも解決できるって! それに全国大会で優勝したとも聞きましたよ! なんの大会だか知らないけど……〉
なんの大会だか知りたいのは、夢子の方です。
しかも、いつの間にか既に優勝したことになっています。
〈ヘルプデスクなら助けてくださいよ! 摘出手術が難しくて、どの医者にも匙を投げられて。『こんな難しい手術ができるのは、伝説の医者【セブンブリッジ】だけだ』とか、ふざけたことまで言われて! なにが伝説の医者ですか! バカにするのもいい加減にしろってんだ! そんなのいるわけないじゃないか!〉
「…………」
つい最近、どこかで聞いた名前が出てきました。
思わず、夢子は圭子の顔を見ます。
すると、圭子がペンを取ってメモに走り書きします。
――名前と、病院の名前、担当医、できたら診察券番号も聞いてください。
夢子は言われたとおりに聞きとると、依頼者に電話を切って待つように伝えました。
すると今度は、圭子が外線をかけ始めます。
「……あ。もしもし。医院長さんですか? 私、セブンブリッジです。先日はお世話になりました。いえいえ。大したことでありません★ ……そうですね。医療ミスは怖いですから、大事にならないでよかったです。……もう。私のような子供に、そんな畏まらないでください。……ええ。それでですね、今日はその代わりと言ってはなんですが、今から言う患者のカルテへのアクセス権をもらえませんか? ええ。そうです、その患者です。もちろん、迷惑はかけません。……はい。……ええ。では、よろしく」
実に簡単に、するっとすごいことを圭子は電話一本で依頼してみせます。
そして、3分もたたないうちに、別のパソコンでカルテを確認する圭子の表情は、先ほどまでのほんわかした表情ではありませんでした。
まさにプロです。
匠が職人芸を見せているかのごとき、眼光の鋭さで周りは誰も彼女に声さえかけられなくなります。
「……なるほど。見えました」
「な、なにが?」
夢子は、オズオズと聞きます。
それに圭子は、いつも通り天使の笑顔で答えます。
「もちろん、希望への架け橋……ですよ★」
可愛い笑顔を見せてから、圭子は依頼者に電話をかけなおします。
相手が電話を取ると、彼女は自分の制服のリボンタイに手を当てて何か操作します。
「私は、セブンブリッジ。ヘルプデスクより依頼を受けて電話をしている」
なんと、圭子の声が、バリトンの効いた渋い男性の声に変わっています。
どうやら、彼女のリボンタイは、変声器になっているようです。
思わず夢子は、「そのアイテム、コ○ンくんのパクリ!?」とツッコミをいれそうになりますが、ここは黙ってモニターです。
〈せ、せぶん? ……なにを冗談を言って……〉
「こちらも冗談を言っているほど暇ではない。そのまま何もせずに死にたいなら、信じないで電話を切ればいい。しかし、もし希望を求めるなら、あんたの命を私に預けろ」
〈――!!〉
相手の息を呑む声が、電話口からも夢子に伝わってきました。
もし、目の前に圭子の姿がなければ、電話の先にいるのはまちがいなくブラックジャ○ク級の相手です。
〈ほ、本当に助けてくれる……のか……〉
「助けるという約束はできない。だが、全力を尽くすことを約束しよう」
〈あ……ありが……とう……〉
電話の向こうからすすり泣く声が聞こえます。
「礼は、希望に続く橋を渡り切ってからにしてくれ。今日の午後、担当医に私に依頼する旨を伝えろ。それで話がつくようにしておく」
「わ、わかりました……でも、そんなにお金は……」
「くだらないことは後で悩め。……安心しろ、今回はヘルプデスクの顔を立てて悪いようにはしない」
「は、はい」
こうして重い内容の電話は切られました。
「……ねえ、石野さん」
夢子は気になることを聞いてみることにします。
「治療代、1M単位なんでしょう? 普通の人に払えるの?」
「ああ。それは取れる人から取りますから。今回は……う~ん、必要最小限にしておきますよ★」
「……圭子ちゃん…………マジ、イケメン!!!」
思わず、女子中学生に惚れそうになる夢子でした。
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■用語説明
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●久々に電話をとった気がしました
何話か電話がかかってきていませんでしたね。
●「医療ミスは怖いですから」
どうやら、やばい問題を圭子が解決したようです。
●「そのアイテム、コ○ンくんのパクリ!?」
出てくる声は、「神谷 明」さんでしょうか、「小山 力也」さんでしょうか。
ちなみに作者は、コ○ンくんを見ていません。
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