第13話「わいせつ物なんですか?」
「というわけで、紹介に預かった、石野 圭子です。これからよろしくお願いいたします。……ああ、やっと挨拶できました★」
幼さの残る愛らしい声でペコリと挨拶する姿は、まさに天使のようです。
ニッコリと笑う笑顔に、夢子も悠もまぶしさを感じて目がくらんでしまいます。
「うんうん。ちゃんとあいさつできましたね」
横で皆藤が圭子の頭をなでくりまわします。
無表情の男が、かわいい女子中学生の頭をなでくりまわするシーンは、かなり怪しく感じます。
なでられた圭子が、うれしそうに「えへへ★」と笑っていなければ、夢子は思わず手に握ったスマートフォンで110番通報していたことでしょう。
しかし、なぜ圭子は皆藤にこんなにもなついて、仲睦まじい雰囲気なのでしょうか。
夢子や悠は、その様子が腑に落ちません。
二人は、短期間で仲良くなった理由を勘繰りたくなってしまいます。
同時に心中で、皆藤が一線は越えていないことを神に祈ってしまいます。
そんな心配はつゆ知らず、皆藤はいつも通りです。
「では、今日は花氏さんと一緒に仕事をしてください」
「え? 私より上空さんの方が先輩だからいいのでは?」
「ほら、石野さんに上空さんは……言いにくいですけど、猛毒なので」
「ちょっ!? 皆藤さん!? 言いにくいのに『猛』毒なんですの!?」
さすがの悠も、ショックを受けたようです。
しかし、皆藤は容赦がありません。
「だって、上空さんって存在が18禁じゃないですか」
「わ、わたくしは、わいせつ物ではありませんわ!」
「……なに言っているんですか、この雌豚が。便器が口をきくんじゃありませんよ」
「なっ!? こ、このわたくしをそんなうつろな目で、め、雌豚……便器なんて……なんてぇ~……あっふ~ぅん♥」
悠はちょろいので、このぐらいでいつも通りメロメロです。
しかし、そのいつも通りを良しとしない人が、今日はいました。
天使のような顔をプンプンとさせている圭子です。
「こらこら。ダメですよ、
なんと圭子は、皆藤の名前を「ちゃん」付けで呼びます。
地の文でさえ、「皆藤」としか書かれておらず、本文中のどこにもまだ発表されていなかった名前をサラッと言ってのけます。
「女の子にそんなこと言ってはいけません。メッですよ!」
圭子が人差し指が立てると、まるでそれが合図だったかのように、サッと皆藤の片膝が床につきました。
そして、彼の額が捧げるように向けられると、圭子は人差し指の腹でそれをチョンチョンと「メッ!」と言いながら突っつきます。
「すいませんでした、けーちゃん」
皆籐の言葉に、ざわっと空気が揺れます。
「こら。会社では、『石野さん』と呼んでくださいとお願いしたでしょう」
「おっと。ごめんなさい、石野さん。とにかくもう、上空さんを罵倒したり、けなしたり、蔑視したりしないようにします」
「うん。いい子です」
圭子は皆藤のあたまをポンとひとなでしまします。
「うんうん。これで仲良くやっていけますね★」
めでたしめでたし……とはなりませんでした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!」
異議あり! とばかり、悠が手を前に出してきます。
「い、いろいろツッコミどころはありますが、まずは罵倒したり、けなしたり、蔑視したりするのをやめるのはやめてほしいですわ!」
「……え?」
圭子は、そりゃびっくりです。
何を言っているのかわからないと、純真な双眸を曇らせた視線で悠を貫きます。
「……そ、そんなきれいな瞳で見ないでくれる……」
さすがの悠も、汚れのない澄んだ瞳には弱いようです。
「え? でも、いいんですか、上空さん……」
「いいんですよ、石野さん」
悠ではなく、皆籐が代わりに答えます。
「彼女はそういう生き物なのです。……ねえ、上空さん。あなたは、『存在が18禁のわいせつ物』……ということですよね?」
「くっ…………そっ、そうですわ♥ わ、わたくしは、存在が18禁の汚らわしいわいせつ物ですぅ♥ ……ああん♥ こ、こんな死んだ目をした、ロ、ロリコン野郎に蔑視されるなんてぇ~ん♥ …………はうっ♥」
その場で自身を抱きしめて身震いしながら、悠は崩れ落ちました。
圭子は、そんな彼女を不思議そうに見つめます。
「……うーん。世の中にはいろいろな人がいるんですねぇ」
こうして中学生の圭子は、また社会というものを勉強したのでした。
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■用語説明
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●「★」「♥」
文学小説では禁断文字ですが、ラノベではグレーゾーン?
小咄なら、完全セーフでしょう。
ちなみに「♥」は機種依存文字なので表示できないかも知れません。
その時は、頭の中で「はぁと」と、ひらがな表記で変換してください。
●「
皆籐の名前は、【
せっかく秘密にしておいたのに、バラされてしまいました。
というか、皆籐さんは完全にロリコンのようです。
たぶん、作者の中にもそんな設定はなかったようですが……。
●わいせつ物
性的にみだらでいやらしい物です。
たとえば、エロゲーや、エロ漫画、【上空 悠】などのことです。
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