2月15日 村沢直哉(営業課収納係長)「応対」
二月に入ってから収納システムのバージョンアップで、交渉履歴が端末から閲覧できるようになっている。
何月何日にどこの誰が支払の日延べ求めてきたか――これまでそんな情報は、紙面で簡単なリストにして残してきただけだったのだが、それがシステム上の水道使用者のリストに直接書き込んで残せるようになった。それも日延べの理由と応対した職員名も併せて。
これで誰が電話を取っても、端末さえ見れば、どんな理由で誰が日延べを認めたか、その交渉の過程が明らかとなり応対しやすくなる。
というよりは――
「十日が給料日で、それ以降に必ず支払うから停水はしないでほしいということだったと思うのですが、実は二十五日が給料日だったということですか?」
「八日はいないから十五日にしてほしいという話だったようですが、不確かな約束ではなく絶対に支払に来れるという日を教えていただきたい」
「今月すでにお問い合わせいただいておりますよ。二月七日、対応した職員は佃。本人おりますのでお電話代わりましょうか」
――“証拠”がある分、みんな遠慮なく強気に出られるようだ。
「しかし、それにしても強いな、みんな」
思わずこぼすと、書類を抱えて傍らに立った山木君が、いつも通りの抑揚のない声で囁くように言った。
「相手が強いのですから強くなければやってられません」
「……なるほどね」
確かに、この場合真に強いのはお客さんたちなのかもしれないな。
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