第157話 再び到着。

 海の男の街を通り抜けて王都に向かう。街は静かで活気がなかった。林がぽつぽつあったが、ほとんどが立ち枯れて寂しいような不気味なような光景に様変わりしていた。

「…こんな、だったかな」

「水がかれてるのー…」

「水の、もう、逝ってしまうのであるか…?」

「コケ…」

「………」

 水の豊富な運河の美しい場所だった筈なのに、そう思うと気持ちが落ち込んでいく。だけど…今は憂鬱に浸る余裕なんてもつ暇も無いから。無理矢理顔を上げて、わざと不敵な笑みを浮かべる。空元気でいい。上手くできなくても、やる。そう決めたのだから。

「僕らは、それを変えるために来たんだよね!」

「…!そう、であるな」

「そうなのー」

「コーケッ!」

「!」

 僕ら自身の願いのために。王都、ヴェーノは立ち枯れの林を抜けたそこにあった。


 下町と貴族街の間を通る道の大きくどっしりした重厚な門は固く閉ざされ衛兵が両脇で槍を立てて見張りをしている。前に来たときより厳重な警備に表情が曇る。やはり状況はよくないようだ。…カインさんはどうしているだろう。手紙は送るだけ送って返事はもらってない。魔道具のペンダントのお陰で無事だとはわかっているけれど。

 頭を軽く振って気を取り直し、精霊さんたちを亜空間収納のついたバッグに入れて門に近づく。

「こんにちは」

「…」

 無愛想な衛兵は僕の顔を見てわずかに首をかしげてからはっとして口を開いた。

「あっ、あんたカイン王子の…!」

 おっとこれはどっちの反応だ?僕の顔なんて知ってるのはカインさんと一緒に会った人だけだと思うけど、敵か味方かどっちかという極端なんだよね…。気づかれないように頭の中だけで魔法の発動準備をする。

「カイン王子は姿を隠したままだぜ、あんたも気を付けな」

 あ、いい人だった。

 疑ってごめんなさいと思いつつ気を付けますと返して街に入る手続きをした。署名だけだから簡単なものだけど。

 分かれ道に入ると下町へ進む。貴族街の方が騎士が沢山いたのだ。魔石を買い足したかったけど、大きな石なら精霊さんがいた辺りでも拾ってるからタイミングを考えて慎重に使えばなんとかなる…よ、多分。


 カインさんの知り合いらしい食堂に行ってみたけど生憎今日は休みらしく女将さんは出かけてて、会えなかった。カインさんが来てないかと思ったんだけど。周りの人の噂話をこっそり聞いてみると最近店自体不定期に休むことが増えて、もしかしたら閉店するのかと言われていた。しかも更に暫し聞いていると客足が遠退いて他の店も経営が危ういとか、水が足りないこの国はどうなるのだろうといった不安の声が聞こえてきた。

「いよいよ不味い…であるな」

 こっそり鞄のフラップを持ち上げてシェイドさんの目が覗く。

「…ヤバそうですね」

 僕らの視線の向こうでは庶民のおばさまたちが輪になって、今の王様は穏やかな方だから水を求めて戦争なんてならないと思うが貴族の不穏な様子が怖いと囁きあっていた。

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