第155話 精霊の想い。
大人の第一間接ほどしかない細く頼りない胴を掬い上げると指に絡むようにしがみつく火蜥蜴ならぬ火ヤモリを回収して火口から少し距離をとって休憩する。片手で亜空間収納から保存しといた料理を出して、暖を取るためのかまどを組むとヤモリがかまどの中へ移動した。中をくるりと回ってちろちろと舐めるように舌が動くと火が点る。火起こしとかチャッ○マンか。便利ですありがとうございます。
一仕事終えた顔で出てきたヤモリは今度は指でなくバッグの紐に登る。邪魔になら無いように気遣えるとか賢い。いや、精霊さんだもんね。
「食べてから移動しよう。…
基本的には魔力で生活する精霊だが盟約中は同じものが食べられるらしい。けどここにいる精霊さんは滅多に盟約を結ぶことはない最上位精霊さんなので珍しそうにパンをちぎっている。ただのナンもどきにスパイスを使った肉みそあるいは肉ソース的な物を添えてある。肉と野菜を細かく刻んだものに味をつけてもったりさせた物をちぎったパンで掬って口に運ぶ。町でスパイスを買っといて良かった!精霊さんも一口食べてからスピードが上がっている。気づけば火ヤモリも小さな頭を突っ込むようにして食べていた。
「さて、次は…」
「王都、であろう。元々あそこは唯一水のが慕う人間が住んでいたである」
「水の精霊さんが?…そうだったんですか」
今まで聞いた限りでは精霊さんが人間と接触するのはごく稀なことのはず、詳しいことを聞いてみたいと言う好奇心が沸き起こる。けどカインさんの過去を知ったときのように勝手に知る訳ではないにしろ無理に聞き出すようなことはしたくないとも思う。結果聞き流すような返事をしてしまい僕はそっと目を伏せた。
「…コケ」
「我らは別に人間を忌み嫌ってはいなかったである」
「え…」
僕の心情を察したように話し出したシェイドさんに戸惑う。
「一時の契約ではない、盟友なのである。否、お主に聞いて欲しいであるな」
「…っ、はい。聞かせてください」
一歩踏み込む勇気がなかった僕に聞く資格なんてあるのかと思う反面聞いて欲しいと言ってくれたのが嬉しい。僕なんかに何ができるのか…なんて聞いてみなければわからないことを聞く前から悩むより、聞いてから悩む方がきっといい。
「我ら精霊は今よりもっと人間たちの近くに存在した」
「その頃は人間もみんな僕らが見えてたのー」
「コケ、コケ」
ちょっと変わった隣人として同じ場所で変わらぬ暮らしを続けていくものだと誰もが意識せずとも信じていた。しかし時経るうちに人間の中にいままでと違う物の見方や考え方をする変わった者が現れると人は善と悪に別れ始める。バラバラになってしまいそうな人間たちをまとめたのが王族だった。精霊たちは王族を好ましく思いそば近くにあるようになった。精霊もまた変わり始めたのである。そんなとき特に一人に惹かれたのが水の精霊だ。水の精霊はその者と盟約を結んだ。永久に傍に侍り続け子々孫々に至るまで守ろうと…だが、人の子は親のコピーではない。盟友と道をたがえた時、水の精霊は眠りに着いた。最低限世界を保つことだけを維持して。
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